第67話『百鬼夜行』

「ショウスケ、上!!」


 餓鬼の群れの中に現れたがしゃどくろに目を奪われていたら、上空にも新手が出てきたようだ。


「なんだあれ? UFOか?」


 上空をものすごいスピードで飛行する鈍色の物体が、東の方から迫ってきた。


 なんというか、羽釜を二つ合わせたような形で、空飛ぶ円盤というよりは鍋だな。


 それが、ざっと見ただけで200~300個飛んできていた。


「デルフィ、撃ち落とせるか?」


「やってみる」


 とりあえず餓鬼の掃討は俺が担当し、デルフィが鍋に向かって魔法の矢を放つ。


 矢が直撃した鍋は飛行力を失い、ふらふらと傾いて落下する。


 その内ひとつは外壁に大きな穴が空いたようで、そこから中身がボロボロと落ちてきたのだが、結局それは餓鬼の群れだった。


 デルフィが片っ端から落としていったが、到底殲滅出来るでもなく、ほとんどが西の方へと飛んでいった。


 さらに落とした鍋から溢れた餓鬼どもが、こちらの戦線を圧迫し始める。


 そうこうしているうちに、うずくまっていたがしゃどくろが背筋を伸ばし、さらに腕を振り上げた。


「おいおい、もしかしてアレ、ここまでとどくのか?」


 リーダーさんががしゃどくろの方を指差す。


 正直言ってでかすぎるので距離感がつかめないが、もしかしたらここまで届くかも。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 なんだが腹に響くような重低音の雄叫びが響き渡り、がしゃどくろが腕を振り下ろす。


「おい! 馬車から離れろぉっ!!」


 リーダーさんが馬車の上に陣取っていた冒険者と馭者を怒鳴りつける。


 一部の冒険者は反射的にその場を離れたが、後衛職等、咄嗟の判断で動けなかった者や馭者は、ただ上空を見上げているだけだった。


 地上にいるメンバーも、上手く反応できた者、よく状況が理解できずにぼーっとしている者とに分かれた。


 どおおおん!! とものすごい音と振動、そして風圧を伴ってがしゃどくろの腕が地面に振り下ろされた。


 かなり遠くにいるように見えるが、どうやら想像を絶する大きさらしく、ちょうど手のひらが馬車を叩き潰す形となる。


 結局馬車を含め半数以上がその下敷きとなった。


 なんとか避けた者も、一部は呆然としており、戦線が乱れる。


「ぎぃやあぁぁ!!」


「痛いっ! ああ!! 離れろぉっ!!」


「ひぃぃ! 来るなっ!! 来るなぁぁ!!」


 餓鬼どもに取り付かれ、食われていく冒険者たち。


 俺の『魔波』で薙ぎ払ったり、デルフィが魔法の矢で的確に餓鬼だけを撃ちとり、なんとか体勢を整える隙を作る。


「ショウスケさんの近くに集まれぇっ!!」


 リーダーさんが物凄い勢いで槍を繰り出し、餓鬼を退けては別のメンバーが冒険者を助けだしていく。


 餓鬼に取り付かれてそれほど時間はたってないはずだが、それでも助けだされた冒険者たちは酷い有様だった。


 手足の一部、あるいは全てを食いちぎられていたり、腹や胸を食い破られて虫の息だったり……。


 それでも見捨てるわけには行かず、回復魔術を使えるものがケアをしていた。


 そうこうしている内に、再びがしゃどくろが起き上がり、腕を振り上げていく。


「デルフィ! 頭!!」


 ある程度周辺の餓鬼ども散らした俺は、再び『魔陣』に切り替え、陣地を確保する。


 その間に、あのデカブツをデルフィに仕留めてもらうことにする。


 俺の指示に大きくうなずいたデルフィは、弓に思いっきり魔力を込め、弦を弾いた。


 数秒後、がしゃどくろの頭がはじけ飛ぶ。


「おお、すげぇ……」


 リーダーさんが簡単の声を上げるが、油断は禁物だ。


「次、胸!!」


 次に放ったデルフィの攻撃は、がしゃどくろの胸骨を粉々に砕いた。


 そのまま衝撃に後ろに倒れつつあったがしゃどくろの残骸は、地面に倒れ落ちるまえに灰となって消える。


 なんとかがしゃどくろを倒せたが、これで一安心というわけにはいかない。


「まずは一匹ってとこか」


 一面に広がる餓鬼の群れの中、がしゃどくろはざっと数えただけで10体は現れ、ゆっくりと前進している。


 それ以外にも、泥田坊やら見上げ入道やらぬりかべ等々、どこかで見覚えのある連中が東の方からこちらへ向かって来ている。


 上空も空飛ぶ鍋だけでなく、天狗やら以津真天やら飛頭蛮やら飛行可能な連中がワラワラと集まり始めた。


 無論、数えるのもアホらしいほどの数だ。


 有名な妖怪のオンパレードじゃないか。


「ああ……百鬼夜行」


 お稲荷さんの言っていた百鬼夜行ってのはこのことか。


 慣用句としての百鬼夜行ではなく、現象としての百鬼夜行。


 それならそれもう少し説明のしようはあったと思うんだがなぁ……。


 こいつらがなんで妖怪の姿をしているのかについては、いずれお稲荷さんを問いただすとして、いまはなんとか退けないとな。



 上空からこちらを見下ろしていた天狗の1人が、ブンと勢い良く団扇を振る。


 うん、扇ぐというより振るという動作だ。


 すると強風が吹き荒れ、冒険者の一部が風に飛ばされた。


 とりあえずデルフィが風魔法で相殺したが、どうやら奴の狙いは俺たちを飛ばすことじゃないらしい。


 団扇の一振りで地上にいた餓鬼が上空に舞い上げられる。


 そして落ちてくると同時に俺たちに取り付いてくる。


「クソッ!! 厄介な!!」


 『界』系防御魔法でなんとか防ぐも、数秒で食い破られてしまう。


 なんとかデルフィが風魔法で散らすが、すべてを排除できるわけじゃない。


 『魔陣』は効果範囲が広い代わりに、対象は地上のみとなっており、空中を標的にすることは出来ない。


 なにより、地上で『魔陣』を連発しておかないと、あっという間に餓鬼に埋めつくされてしまう。


 天狗たちは団扇で風を起こし、どんどん餓鬼を舞い上げていく。


 俺が『魔陣』で近くの餓鬼を殲滅し、舞い上げられる数そのものを減した後、デルフィが風魔法で排除していく。


 しかし一進一退の攻防を続けている間に、別のがしゃどくろの接近を許し、倒す間もなく一撃をお見舞いされる。


 俺とデルフィはなんとかかわしたが、他の冒険者たちはかわせなかったものが多く、さらに一旦こちらの攻撃の手がやんだところに餓鬼が殺到し、結局俺とデルフィ以外はあえなく全滅。


 デルフィがなんとか2体目のがしゃどくろを倒したが、そのあたりで敵の攻撃パターンが変わる。


 天狗どもの一部が団扇を弓矢に持ち替え、こちらに矢を放ってきた。


 防御魔術『魔界』で初撃は防いだが、一撃一撃が強力な上、雨のように降り注ぐ矢を防ぎ続けることは出来なかった。


 デルフィも風魔法で矢を散らしたが、やがて1本の矢がデルフィの胸を貫く。


「デルフィ!!」


 デルフィはこちらを見て口を動かしたが、それが言葉になることはなく、彼女はそのまま地面に倒れた。


 こうやって死にゆくデルフィを、あと何回見なくてはならないのだろうか。



《スキル習得》

<自爆>


《スキルレベルアップ》

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>

<自爆>



「とりあえず今回は自爆じゃあ!!」


 俺は詠唱済みの『魔陣』をすべて発動させた後、あらん限りの生命力と魔力を込めて<自爆>スキルを実行した。

 

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