第四章 三人について

プロローグ「始まっているの?」

 まどろみの中で少女は夢を見る。

 そこは、ただ椅子のみが置かれた砂漠。

 太陽もない、暗くもない、あるのは、椅子と自分。

 飾りもない、木で組み立てられただけの椅子。

 少女は、椅子に腰を掛ける。

 手には、紋様のないナイフ。

 するりと滑り込むは自らの胸。

 手には、何もない。

 何も、ない。

 声を出そうとして、口がないのに気が付いた。

 ただ、涙を流している。


 まどろみの中で少女は夢を見る。

 そこは、ただ椅子のみが置かれた闇。

 月もない、明るくもない、あるのは、椅子と自分。

 飾りもない、壊れかけて座れそうもない椅子。

 少女は、闇に腰を掛ける。

 手には、白銀の指輪。

 するりと滑り込むは自らの胸。

 手には、何もない。

 何も、ない。

 音を聞こうとして、耳がないのに気が付いた。

 ただ、涙を流している。


 まどろみの中で少女は夢を見る。

 そこは、ただ椅子のみが置かれた無。

 星もない、色もない、あるのは、椅子と自分。

 飾りもない、壊れて木片だけの椅子。

 少女は無に腰を掛ける。

 手には、約束の言葉。

 するりと滑り込むは自らの胸。

 手には、何もない。

 何も、ない。

 前を見ようとして、目がないのに気が付いた。

 もう、涙は流れない。

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