第11話

次の日も、その次の日も奥苗は比空と一言も交わさなかった。

 比空と顔を合わせることが嫌で、昼休み奥苗は校庭に設えてあるベンチに座ってパンを頬張っていた。グランドで遊ぶ生徒を眺めながら比空のことを考える。

 言い過ぎたとは思っていた。その場の感情に任せて怒りを吐き出してしまったことは後悔している。けれど、どうしても比空がやりたいこと、やろうとしていることを応援することができなかった。

 自分自身の感情なのに、奥苗はその気持ちを言葉にすることができない。

 風が吹く。木立の葉や枝が揺れる音がした。

「珍しいね一人で昼食なんて」

 顔を上げると作延好道がウーロン茶のペットボトルを持って立っていた。

「そうでもねーよ」奥苗はぶっきらぼうに答える。

 作延は奥苗の隣に腰を下ろした。

「最近は比空さんと一緒にいるところをよく見かけたからさ」

「あいつは自分勝手だからな」

 ふーん、と作延は呟く。

「そういえば、綾瀬さんのブルマの件は解決したの?」

「いや、してねーな。そもそもおれは解決させようなんて考えてないしな」

「そうなの?」作延は驚いたような顔をする。

「比空が勝手に頑張ってるだけだ。おれはもうやめたよ」

「それじゃあ、今は比空さん一人でやってるんだ」

 奥苗は曖昧に頷く。比空を一人っきりにさせているという事実に後ろめたさに似た感情を覚える。

「比空さんはどこまで犯人を絞れたのかな?」

「知らねーよ。どーでもいいし」奥苗は作延を見る。「なんだ。興味あんのか?」

「そうだね。妹の友だちの話だし、誰かが困っているならできる限り手伝いたいと思うよ」

 奥苗は呆れる。どいつもこいつも他人のことばっか考えていやがる。

「一年四組の今福誠治と、おれと同じクラスの久住佑には話を訊いた。おれが知ってんのはそんだけだ」

 奥苗はパンの包み紙や飲み干した紙パックを近くのくずかごに放り捨てる。

「んじゃあ、またな」奥苗は立ち上がった。

「うん。比空さんに協力できることがあったら言ってって伝えといてよ」

 奥苗は眉間にしわを寄せる。

「言う機会があったらな」

 教室に戻ると比空が一人でお弁当を食べていた。箸はあまり進んでおらず、弁当の中身はまだ沢山残っていた。うつむき加減で、喧噪からぽつんと取り残されたような比空の姿を見ていられなくて、奥苗は昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで校内をうろうろと歩いた。

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