第135話 アイデア
「そして……」
十一夜君が何か言葉を継ごうとすると、珍しくその
「あ、ちょっとごめん
電話の向こうは
実際聖連ちゃんと通話中の十一夜君の様子は結構深刻そうに見えるので、何か重要なことが話されていることは間違いなさそうだ。
「そうか……分かった。じゃあ手はず通り」
通話を終えた十一夜君の表情が険しい。
「十一夜君?」
「ハッキング中に違うハッカーから攻撃を受けたらしい。防御一辺倒でデータ入手まで行けなかったって」
「つまり、わたしたち以外にもあそこのデータを狙ってる人がいるってこと?」
「そういうことになる。問題は、そのハッカーに聖連の存在を認識されてしまったことだ。それと、正体まで追跡された可能性は低いけど、ゼロではないからしばらく動けないことになる」
「よく分からないけど、それって結構痛手では?」
窺うように控えめに質問してみると、十一夜君は瞑目して小さくため息を吐いた。
「いや、そうとも言えるけど、存在を認知されたのはお互い様だ。侵入していた奴についての情報から何か掴める可能性もある」
なるほどぉ。逆転の発想だね。ピンチはチャンスってやつだね。
「手はず通りって言ってたのは?」
「想定できることに関しては、僕らは基本的にすべて定められた手順っていうのがあるんだ。それがあることで迷わず素早い決定ができる。それだけアクションも早くなるからリスクも減らせるのさ」
「はぁ〜。なんかさすがだね」
こんなことわたしじゃ想像もしてなかったけど、聖連ちゃんにとっては想定済みだったってことだ。想定されるあらゆるリスクヘッジを行っているわけだ。中学生なのにプロ中のプロだなぁ。
「それにしてもあの聖連が防御一辺倒とは相当な相手だったんだなぁ。一体何者だろう……」
十一夜君はまた瞑目して考え込んでしまったようだ。
確かに。聖連ちゃんが戦略的撤退に追い込まれるなんて想像したこともなかったな。一体誰が……って、多分M S絡みなんだろうけど。
「あの業界も狭そうな世界だ。腕利きのハッカーなんて限られるはずなんだよ。腕がいい奴はそれなりに界隈では名が売れてるはず」
「ん? だとしたら、聖連ちゃんの正体もばれちゃわない?」
「聖連がだいぶ深く潜り込んでたら、その手口なんかの特徴で見る人が見れば推定されるだろうね。だけど今回はデータにまで辿り着いてないらしいから、それはないんじゃないかな。絶対ってことはないけど」
「はぁ〜、なるほどねぇ〜」
そういうものなのか、としか言えない程度によく分からない世界の話だ。
「とにかく、一旦聖連が合流するはずだから、食べ物注文してくるけど、華名咲さんも何か食べる?」
え、まだ食べるの? 散々食べまくってた気がするんだけど。
「わたしは、別にいいかな……はは」
「そうか」
言うと十一夜君はさっさと自分の追加注文をしに行ってしまった。
どんだけ腹ペコだよ。
そうしてまた十一夜君がむしゃむしゃやること暫く、彼が言ってた通り聖連ちゃんが店に入ってきた。
「よぉ、お疲れ」
ぶっきらぼうな兄の出迎えの言葉に、聖連ちゃんは珍しく返答なしだ。
そんな聖連ちゃんに、わたしも下手くそな笑顔を取り繕いながら「お疲れ様」とねぎらい迎えた。
「ふぇーん、やられましたぁ」
戯けた様子でわたしにはそう言ってみせる聖連ちゃんだが、鞄からラップトップパソコンを取り出して早速何かやり始めた。
十一夜君は口出しせずに黙って自分のスマホを弄っている。
手持ち無沙汰なわたしはどうしていいのか分からず落ち着かないので、飲み物を追加することにして席を立った。
席に戻ってもまだ二人の様子が変わってないところを見ると、さしたる成果は今のところないということか。
飲み物を含んで緊張で渇いた口を潤す。
「分かった」
聖連ちゃんが突然顔を上げてそう口にした。何が分かったというのだろう。
十一夜君も私と同じく固唾を飲んで聖連ちゃんの次の言葉を待っている様子。
「ウサビッチだこれ」
ん? ウサビッチってアニメの? どした、聖連ちゃん突然に。 ん?
「ハッキングの邪魔した奴ですよ。
クラッカー? ハッカーと違うの?
とか思ってたらすぐに察してくれたのか、聖連ちゃんが続けて説明してくれた。
「あ、クラッカーっていうのはハッキングのスキルを使って悪さする人たちのことで、ウサビッチは裏サイトとかで割と有名なクラッカーです。他人の銀行口座からお金奪ったり、色々不正で荒稼ぎしてるので最近評判になってる」
「そんな奴が政府の研究機関に一体何の用があるんだ?」
確かに。十一夜君が言うことももっともだ。うーん、わたしが考えても分かることじゃないか――――あ……。
「あの……関係ないかもだけど、ウサビッチって名乗ってるのって、例の兎と関係してたりは……?」
「それっ!」
十一夜家の二人が同時に声を上げる。
へ? わたしの思いつき、もしかして満更でもない感じ?
「先輩、ナイスです! その線は十分あり得ます!」
「うん、あるね。聖連、その線で探ってみることにしよう」
うわ、ナイスだった? いつも役立たずで心苦しく感じてたから、そう言われると何か嬉しい。
因みに例の兎というのは、秘密結社兎屋を含む、十一夜家含む月の一族と古くから因縁の関係にある兎一族のことだ。
以前朧さんから聞いた話だと、兎はノイマンの返信とかいう手紙を巡ってMSと争っているという話だった。ひょっとして、その手紙とやらに政府の研究機関も関わっているということかしら?
「よし。仲間に情報を流して共有したから、そっちの線でも動いてくれるはずだ」
携帯を弄っていた十一夜君が、そう言うと水滴まみれのコップをぐいっと煽った。
何かまた進展がありそうな予感。
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