4.

 車内アナウンスが浦安へ到着したことを告げる。

 降りる客が落ち着いたところで、五十嵐は空いた席に腰を下ろした。バックパックを腿の上に乗せ、両腕で抱き込んで、そこに顔を押し付ける。

 自分でも分かっていたことだった。ただ気付かないようにしていただけで。

 宛てもなくどこかへ向かっているなんて嘘だ。

 本当は電話口で母親にあんなことを言っておきながら、実家に帰ろうとしているだけだ。

 ICカードにチャージした一万円はぎりぎり実家に帰るのに必要な額だし、下宿先から持ち出してきた荷物だって中途半端なものだ。本気でひとり、どこかへ旅に出るつもりならもっとまともな準備をするべきなのだ。

 どこかへ行きたいと思いながら、結局どこへも行けない自分に、そうするだけの度胸もない自分に腹が立つ。

 きっと実家に帰ったところで、帰らないと言ったんじゃないかなんて母は言うまい。娘がそう宣言したことさえ忘れて、あら帰ったの、と興味がなさそうにしているだけだろう。母だけでなく、父も弟も、きっとそうだ。

 どこか遠くへ行きたかった。

 たしかにそう思っていたはずだ。

 でも現実はどうだ。どこかへ行ったところでなにも変わりはしないし、何からも逃げられはしない。

(自分にまったく関心を持たない家族と、テストの直前だけ連絡を取ろうとする学科の同期の顔が浮かんでは消える)

(けれど結局自分は、大学の同期はともかく家族とは曖昧な繋がりを持ち続けるのだろう)

 漠然とした息苦しさ。真綿で首を絞められるような感覚。

 ずっとこうなのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えるうちに、気付けば五十嵐は眠りに落ちていた。

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