3.

 ――夏休みは帰省しないから。

 夏休みに入る直前、緊張しながらも何気ない風を装って電話口で告げると、母親は大して興味がなさそうにそう、と答えた。

 拍子抜けするほどあっさりとした返事だった。せめて理由を聞かれるだとか、何かあると思ったのに。

 思わず言葉をなくした五十嵐に、母親は先ほどまでの会話などなかったように弟の話を始める。

 弟の話をするときの母親の声は、いつだって弾んでいる。

 それに対してどんな風に相槌を打って、どうやって電話を切ったのか、もう五十嵐は思い出すことが出来ない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます