元引きこもり殿下の甘くない婚約生活4

 オートリエがついに我慢できなくなってカルラを呼びだしたのはお茶会も二日後に差し迫った日の夕刻であった。


 レカルディーナは不在にしている。今日はダイラの勤務が休みのため、二人でミュシャレンの街に遊びに行っているのだ。ダイラは王宮に雇われている身の為レカルディーナの里帰りには付いてきていない。

 娘にはあまり聞かせたくない内容の為オートリエはこの隙を見計らって母親を呼びだした。


「お母様、レカルディーナに対する言動、いい加減にしてくれないかしら」


 屋敷の東側にある小さな客間である。

 大きな応接間とは違い、小さめのテーブルが一つ置かれただけのこの部屋は、主に気の置けない友人など、少人数で会話を楽しみたいときに使っている。

 ちなみに密談にもぴったりだ。しかし、今日の議題は少々重苦しくもあったけれど、それでもオートリエは何としてでも言わなければならない。


「なあに、急に」

 カルラはまるで身に覚えがないように首をかしげた。

 オートリエは内心で盛大にため息をついた。これは長い話し合いになりそうだ。


「ここのところ、レカルに対して冷たいでしょう。しかもあの子の結婚について悪いことばかり吹き込んで。さびしいのは分かりますけど、自分の選んだ相手を認めてもらえないってとても悲しいし辛いのよ。あの子はこれから幸せになるために結婚をするの。どうして嫌なことばかり言うの」


 オートリエの言葉にカルラは特に表情を変える事もなかった。ゆっくりとした仕草で用意されたお茶のカップを持ち、口を付けた。

 夫に付いてファレンスト商会を支えたカルラは貴族の夫人とはまた違った威厳というか迫力を備えた女性である。自分たちは後ろ盾もないところから今日の財と地位を築き上げた、という自負がそうさせるのだ。


「冷たくなんてないですよ。ただ、あの子は世間というものが分かっていないから色々と教えてあげているんですよ。あなたにも教えたのに、失敗したから」

 つーんとした声音だった。


「そりゃあ、学校を卒業したてですけどね。結婚は好きな人とするのが一番です。侯爵家の娘なのだから王太子殿下のお相手として不足は無いでしょう。何が気に入らないんですか」


 母の声音に呼応する形でオートリエも自然強い口調になった。別にこちらから無理強いをして嫁に出そうとしているわけではない。二人ともお互いのことが好きなのだ。何の問題があるのだろう。


「気に入りませんよ。大体、あの子にはフラデニア人と結婚してもらおうと色々と準備していたのに。なんだってよりにもよってまた、アルンレイヒの人間なんだい。しかも王太子だなんて、商家の家の者がそんなご大層な家に嫁いだら苦労することなんて目に見えてますよ。一時の熱情だけで結婚したら後悔するに決まっているじゃない」


 カルラはぷいっとそっぽを向いた。

 オートリエはこめかみを引くつかせた。

 レカルディーナの両親である自分たちをすっとばしてなんてことを企んでいてくれたのか。初耳すぎる発言を聞いてオートリエは盛大に、今日話し合いの場を設けて本当に良かったと思った。そもそもレカルディーナはオートリエとセドニオの娘なのだ。間違ってもカルラの娘ではない。


「あのね、お母様。レカルディーナはパニアグア侯爵家の正式な娘です。わたくしが産んだ子です。お母様の子供ではありません!」

「うちの血を引いているんだからファレンスト家の娘です!」

「ああ、もうっ! お母様は結局わたくしの結婚が気に入らないだけでしょう」


 強情な母の態度にオートリエはぷちっと頭の中の何かが切れるのを感じた。カルラはいまだにオートリエが勝手にパニアグア侯爵家へ嫁いだのが気に食わないのだ。だからレカルディーナに固執する。唯一の娘が反抗したから、今度はたった一人の孫娘を自分の思い通りにしようと画策をしている。娘のオートリエが失敗作だったから。


「そうだよ。当り前じゃないか。わたしのいうことなんかちっとも聞きやしない。勝手にアルンレイヒ人の、それもうんと年の離れたこぶつきの男なんかに入れ込んで。いい恥でしたよ」


 カルラの本音を聞いてオートリエは今すぐにでも怒りたかったが鋼の精神で耐えた。

 オートリエはカップに口を付けて怒りを鎮める。この件ではいまだに二人の間にしこりが残っているのだ。


 孫が生まれて形式上和解はしたがカルラは心の奥底でオートリエをいまだに許してはいない。自分の思い描いていた相手とは真逆の、他国の貴族なぞに惚れて押し掛けるようにアルンレイヒへと旅立ったことをいまだに根に持っている。今や貴族をしのぐ財産を築いたとはいえ市民階級出のカルラは貴族らにいい印象は持っていない。成金と揶揄され、格式と伝統を手に入れるために貴族と婚姻関係を結ぶということは意地でもしたくないのである。ようやく生まれた娘だったためフラデニア国内で、同じような商家の男と結婚をさせたがっていたのだ。


「大体、あれだけ大事に育ててあげたのに一人で大きくなったような顔をして勝手に親を見捨てて隣国に嫁ぐなんて。レカルディーナにはフラデニアに来てもらったっていいでしょう」

「だから、好き合っている二人を引き裂くことがおかしいと言っているのよ」

「こっちの王太子が強引すぎるだけなんじゃないのかい。あの子もフラデニアに一度戻ればすぐに熱から冷めて現実をみるに決まっているよ。四年間も慣れ親しんだ国だし、友達だってルーヴェのほうが多いんだから」


 オートリエは唇をかみしめた。何か言うとぴしゃりと返してくるのだ。昔から変わらない。年を取ってからますます頑固になってきたようだった。


「だからって、あの子に対して文句を言うのはやめてちょうだい。特にお茶会ではパニアグア侯爵家の親族だって大勢見えるのよ。あんまりな態度をしているとフレンたちと同じホテルに行ってもらうわよ」


 屋敷の女主人の権限をちらつかせるとようやく不承不承ながらもカルラは口を閉ざした。アルンレイヒのホテルはどうにも好きになれないのよね、とは昔からの口癖だ。フラデニアが大好きな人なのだ。だからオートリエがいまだに許せないでいる。


 オートリエは内心ため息をついた。

 レカルディーナをフラデニアの寄宿学校にやったのは間違いだったかもしれない。確かに実家のことを成金と陰口をたたかれることもあったけれど、オートリエはあまり気にしていない。事実は事実で変えられないのだし、愛するセドニオが優しかったからだ。二人の義理の息子もオートリエには一定の敬意を示してくれた。本当の親子のようになんでも本音の言い合える関係というまでにはまだちょっと時間はかかるけれども、それでも拒絶されていないだけましである。分かりにくくてレカルディーナには伝わっていないが、二人の息子は年の離れた異母妹のことも可愛がってくれている。絶賛空まわり中なのでみているこちらのほうがはらはらしてしまうのだけれど。


 やはり身内からは祝福をされて結婚したいものだ。花嫁の父としてセドニオは色々と複雑だし、兄二人もなんだかんだと溺愛している妹がやっと戻ってきたと思ったら王太子取られてしまい機嫌を損ねている。


「とにかくあの子には王宮に帰る前に楽しい思い出を作ってほしいの。くれぐれも余計なことは言わないようにお願いするわね。でないとほんっとうに今すぐにでもルーヴェへと帰ってもらうから」

 オートリエはもう一度強い口調で母に念を押した。




 主に親族を招いてのお茶会、とのことだったがふたを開けてみれば大層賑やかな催しになっていた。パニアグア侯爵家の親戚筋や父や兄が仕事関係で付き合いのある人物の姿もあったし、祖父母やディートフレンも出席していた。


 レカルディーナは会が始まった直後から大勢の人に囲まれてしまい笑顔を顔に張り付かせていた。明日は顔面が筋肉痛になりそうだった。祝辞を述べてくれるのはありがたいのだけれど、その瞳は好奇心に溢れていて引きこもり王子を射止めた手腕に感嘆したり、もっとあからさまだとどうやって騙したの、と聞かれたりもした。騙したといえば確かにそうかもしれないけれど、なれ染めを話すと色々とまずいのでとりあえず笑っておいた。なるほど、ベルナルドはこういう貴族同士のやり取りに辟易してしまったのかもしれない。


 お茶会が始まり、一通り挨拶を済ませたところでようやくレカルディーナは解放された。

 今日はパニアグア家一同が勢ぞろいしているのだ。


「ああレカルディーナ。明後日には王宮へ行ってしまうんだろう。殿下に意地悪をされたらすぐに帰ってきていいんだよ」


 父セドニオは今朝からことあるごとに同じ台詞を繰り返していた。母オートリエが夜会で一目ぼれをしたセドニオは娘の目から見ても年の割に若々しい。


「意地悪なんてされないわよ、殿下は優しいもの」


 ちょっと過保護すぎるきらいはあるけれど、と心の中で付けたしておく。花嫁の父というものは複雑らしい。特にレカルディーナは遅くに授かった一人娘ということもあり幼いころから溺愛されていた。寄宿舎に入るときも最後まで反対をしていたのがセドニオだった。


「父上。まだ客人が見えますから、泣くのはあとにしてください」


 ディオニオが冷静な声でセドニオを窘めた。感情表現豊かな父に対して兄ディオニオは昔から常に冷静沈着だった。ベルナルドもあまり表情が表にでないけれど、ディオニオはそれに輪をかけてひどいのだ。レカルディーナは密かにパニアグア家のレヴィグレータ仮面と呼んでいた。ちなみにレヴィグレータとはアルンレイヒの子どもたちに恐れられる怖い顔をした悪魔である。


「ディオニオだってさびしいだろう」


 急に話を振られたディオニオはそこで口を閉ざした。レカルディーナは視線を感じて慌てて目を逸らしてしまった。彼の冷たい目とよそよそしい態度が小さい頃から苦手だった。年の離れた半分だけ血のつながった兄妹。兄はもしかしたらレカルディーナのことを妹だなんて思っていないのかもしれない。


「お父様そんなこと言ったらお兄様が困るわよ」

 レカルディーナは慌てて父の言葉をさえぎった。

「そんなことないよ。ディオニオ兄様はレカルのことが大好きなんだよ。大好きすぎて空回りしているけどね」


 突然エリセオが会話の中に入ってきた。レカルディーナは驚いてエリセオのほうを見た。その手にはお酒の入ったグラスがあった。なるほど、酔っぱらっているらしい。

 ディオニオは興ざめしたのかその場から離れようとした。しかし、エリセオが珍しく彼の腕をぎゅっと握って話さなかった。


「離せ」

「まあまあ兄上。昔からの思いのたけを思い切りぶちまけちゃったほうがいいですよ。これからレカルは王太子妃になっちゃうんだし」

 エリセオの口から出た王太子妃の言葉にレカルディーナは赤くなった。反対にセドニオは悲しそうに眉をさげた。

「せめて、せめてあと一年先延ばしに……」

 と泣き始める始末である。


 もしかしたら父もお酒を飲み過ぎたのかもしれない。いや、今日はずっと一緒にいたけれどそこまで酒を煽っていた記憶はない。


「あらあら、皆さまお揃いで。わたしも仲間に入れてくださいな」


 一緒に連れてきた子どもたちを乳母に預けたディオニオの妻、ベリアナの姿があった。

 少し赤みがかった金髪を既婚女性らしくきっちりと結いあげ、上品な淡い茶色のドレスを纏った二十代中頃の女性である。


「ベリアナお義姉さま。ごきげんよう」

「ごきげんよう、レカルディーナ。帰国したのにちっとも会いに来てくれないんだもの。寂しかったわ」


 ディオニオとは違い朗らかな義姉ベリアナは柔らかい笑みを浮かべてレカルディーナに親しげに話しかけた。昔からベリアナはレカルディーナに優しい。


「ごめんなさい。色々とあって……」


 やっぱり寄宿学校卒業からのどたばたについては言えないのでレカルディーナは苦笑を浮かべた。レカルディーナが男装した挙句に王太子の侍従をしていたという事はパニアグア侯爵家の最重要機密事項なのだ。


「もう、しょうがないわね。でもこれからはもっと結婚の先輩としてわたしのことも頼ってね。そういえば何をお話ししていらしたの?」


 ベリアナはレカルディーナににこりと微笑んで、ベリアナが会話に加わる前の話題に着いて尋ねた。


「いえ、ちょうどいい機会だから兄上の長年の誤解を解いてあげようと思いまして」

 エリセオがにこりと笑って事の次第を説明した。

「あらいい考え。ディオニオ様も勘忍して、今日こそはきちんと口にした方がいいと思います」


 レカルディーナとディオニオを覗いた三人がうんうんと頷いている。レカルディーナは話の内容についていけずにおいてきぼりだ。だからなにがどういうことなのか。


「ふふふ。ディオニオ様はレカルディーナのことが大好きなのよ。小さい頃、一緒に遊んであげようとしたところ、逃げられて大泣きされたことが心の傷になってしまうくらい」

「へ……」


 レカルディーナはくちをぽかんとあけた。

 恐る恐るディオニオのほうへ視線を移してみたが、表情は普段からあまり変わらないように見えた。要するに今日も絶賛仮面のように怖い顔ということだ。


「ベリアナ……」


 すっとディオニオの傍らに寄り添ったベリアナはやさしい顔をしてディオニオの手を取って撫でていた。正直今までどうしてこんなにも優しくて笑顔の素敵な女性が万年悪魔顔のディオニオと結婚したのだろうと心底疑問に思っていけれど。レカルディーナは初めて二人の夫婦らしい関係性が見えたような気がした。


「あら、ディオニオ様の言葉を代わりにわたしが言ったのよ。あなた真剣に悩んでいたじゃない。妹に嫌われているって」


 それを耳にしたセドニオとエリセオが肩を震わせて明後日の方に顔を向けた。笑いをこらえているのだ。この二人は以前からディオニオの悩みを知っていたのだろう。

 ディオニオがベリアナのことを睨んでも彼女はどこ吹く風で相変わらずにこにこ顔のままだった。

 長年の真実をもたらされて、ディオニオの反応からなんとなく嘘ではないような気がして、レカルディーナはおずおずと切り出した。


「お、お兄様……わたし。その……泣いてしまってすみませんでした」

「いやいや、レカルが謝る必要はないんだよ。あんな幼い子供を捕まえて延々難しい学術書を朗読されたらそりゃあ泣いちゃうよね」

 セドニオがレカルディーナの肩をぽんぽんと叩いた。

「うんうん。その後も顔を見た途端に泣かれたこと多数。しまいにはわたしお兄様に嫌われているって妹に勘違いまでさせちゃうし」


 エリセオも頷きながら話を引き継いだ。

 レカルディーナは兄二人の顔を交互に見た。エリセオは相変わらず人の悪い笑みを浮かべている。ディオニオは冷たい双眸のまま、だったがわずかに頬が赤くなっていた。


「レカルディーナ様が寄宿学校に入られる時もそれは心配をしていたのよ。終いにはこっそりフラデニアまで様子を見に行かれて」

 最後はとんだ爆弾を落としたベリアナである。

「ああ、そんなこともあったね。たしかあのとき寄宿学校の職員から不審者扱いされて危うく警吏隊に突きだされるところだったんだっけ」

 セドニオが懐かしそうに言えば、隣でエリセオも同じくしみじみと頷いている。


「ですね、父上」

「……うるさい」

 ぼそりとディオニオが呟いた横でベリアナが両手で顔を覆っていた。笑っているのだ。

「えぇぇぇぇっ!」

 衝撃の事実にレカルディーナは声をあげた。まさかそんなことが裏で起きていたとは初耳である。


「だからね、殿下に愛想をつかしたらいつでも帰ってきていいんだよ。お父様もお兄様たちもレカルのこと大好きだから」


 セドニオが男三人の代表のように語りかけてきた。

 エリセオは腕を組んで、「まあ、それも面白いしね」とぶつぶつ言っていた。結局彼はいつも茶化した言い方しかできないのだ。それでもレカルディーナのことを一応は心配しているらしい。


「……おまえさえよければいつでも帰ってこい」

 ディオニオからの言葉にレカルディーナは言葉を失った。生まれて初めて優しい言葉をかけられたような気がする。

「またまた、お嫁に行っちゃうのが悲しくて仕方ないくせに」


 セドニオは子どもたちが一同に会して会話をしていることが嬉しくてたまらないのか満面の笑みだった。

 二日後には王宮へ戻るのが惜しくなっちゃうくらいレカルディーナは楽しかった。最後の最後に兄らの本音が聞けて嬉しかった。別にレカルディーナが王太子妃にふさわしくないから結婚についていい印象を持っていないとかじゃなくて、単に寂しかっただけなのだ。

 お嫁に行く前に家族で笑いあえて良かったと思う。これからはディオニオとも、もっと色々な話をしてみようと思った。


「二人ともありがとう」


 レカルディーナは自然に笑みを浮かべた。なんだか心がとっても暖かい。

 兄二人へ笑顔を向けるとディオニオは虚を突かれたような顔をして、しかし口を真一文字に引き締めたまま下を向いてしまった。エリセオは少しだけ毒気を抜かれた様にレカルディーナを見つめてきて「なんだよ急に……」とかごにょごにょ言っていた。彼なりに照れているらしい。兄妹の様子にセドニオは涙目になってうるると涙を目の中にためている。


「あらあ、楽しそうね。なんの話をしているの?」

 家族の笑顔をみつけたオートリエが側へと寄ってきた。

 家族っていいなって思った。

 それから、無性にベルナルドの顔が見たくなった。


しかし、レカルディーナが次に訪れたのは王宮ではなかった。


 親族との茶会も終わった翌日。

 レカルディーナは頭がぼうっとして瞼を空けるのが億劫だった。

 昨日は夜も浅いうちから強烈な眠気が襲ってきて、寝台に入ったのかも分からないくらいに急に視界が暗転したのだ。よく寝たはずなのに頭の中が霞みがかったように白くぼんやりとしていた。


 レカルディーナは回らない頭で一生懸命考えた。

 パニアグア侯爵家主催の茶会がなんだかんだと夕暮れ時まで続き、その日はなぜだか夜も浅い時間から睡魔が襲ってきた。そうしていつもよりも早く寝室へ引っ込んで、寝台に倒れ込んだ。


 そんなにも疲れていたのだろうか。

 ようやく起き上がる気持ちになってきて、レカルディーナは瞳を空けた。

 何かが違っていた。確かに自室で休んだはずなのに、目が覚めると部屋の景色が一変していた。見覚えのある寝台は確かにレカルディーナのものだった。だが、おかしい。ありえない場所だった。


「な、なんで……」


 レカルディーナは呆然とつぶやいた。

 にわかに自分の目に映るものが信じられなかった。寝かされていた寝台の上掛けは淡い黄色で南国の花模様。大きな寝台に天井画は見慣れたものだったが、ここ数日慣れ親しんだものではない。


「どうして……お祖母さまのお屋敷に……」


 朝起きたらなぜだかフラデニアの祖父母の屋敷だったのだ。明日ベルナルドのところに戻るはずだったのに、なぜこんな、遠く離れた場所にいるのだろう。

 レカルディーナは自分の目に映っている光景が信じられずに、そろりと寝台から抜け出した。体がひどく疲れているのかぐらりと視界が揺れた。

 ふらつく足でどうにか立ち上がろうとしたとき、部屋の扉が開いた。

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