第118話 報告
藤五郎のよこした薬は本当にすごかった様だ。
それを服薬した職人はかなり激しい下痢をおこしたらしい。
最初は周りの者も「何か変なものでも食べたのだろう。」位に思っていたらしいが、もう1人が同じ症状を起こすと対応が、がらりと変わったらしい。
2人とも(薬を飲み続けているため)3日経っても症状が一向に収まらないことから、本当に流行り病と間違えられ、直ぐに今いる場所を追放され、番所に連れてこられた。
番所でも1日置かれただけで、直ちに普段浮浪者を置き去りにするところに連れて行かれた。
そうなれば後は簡単だ。
俺たちと落ち合って水穂に来るだけだ。
職人を引き抜く条件については既に了解済だ。今(隠岐)の1.5倍の給料と住むところの提供。
このくらいの出費は、鉄砲が手に入ると思うと、さほど痛くもない。
更に隠岐の様に監視された状態ではなく、それなりの自由がほしいということだったが、これも特に問題はない。
逆に積極的に他の鍛冶職人などと交流をしてもらっていろいろ技術を公開してもらいたいところだ。
何といっても職人は2人しかいない。
これでは話にならない。何としても他の職人を養成しなくてはならない。
その話もしたが、当初俺は断られるのではないかと思っていた。
というのは、職人にとって技術とは飯の種だ。特に今それなりの高給で迎えられたのも、希少価値があるからだ。
誰もが同じことをできてしまっては、当然その希少価値が減る。
だから、てっきり拒否されるかと思っていたのだが、その分の割り増し賃金を払いさえすれば、教えてくれるという。
これには正直俺も最初驚いたが、後で藤五郎に聞いてみると、どうやら俺たちが今後も、隠岐から他の職人を呼ぶと思っているらしい。
そうなると、そのうち誰かが技術を公開するだろうから、だったら先に自分が公開して、それで儲けた方が良いと考えているとのことだった。
正直、今後も同じ手が使えるとは思えなかったが、今回連れてこられた2人はそんなことはわからない。
すんなり隠岐を抜けてこられたので、今後も同様に職人が水穂に来ると彼らが勝手に思うのもあり得る話だろう。
正直誤解なのだが、ありがたいので利用させてもらうことにする。
さて、雅については、今回職人のことがあったので、わざと同行させなかった。
彼女は手形を持っているので、別に同行しても問題ないのだが、行く時と帰る時で、下手に人数が違い、いろいろ調べられると面倒なことになることを恐れての措置であった。
俺は彼女を本気で正室として、受け入れるつもりだし、そのことについては藤五郎はもちろん雅も異存はなかった。
この話をしたとき、藤五郎は本気で喜んでいたし、雅はどうも今一実感のないような顔をしていた。
側室ならともかく、正室となると、やはり両親に報告し、事前に了承をもらっておかなければならない。
何にしろ、職人を庭先に送るにあたって当然水穂を通過するので、報告はその時にすることになる。
まともに考えれば、雅は商人の娘ということになっているのだから、正室になることはできない。
しかし、こんなものはいくらでも抜け道があり、雅を家臣の誰かの養女にしてしまえば、武士の娘ということになり、問題はなくなる。
藤五郎も、しばらくしてから、このことに気が付いて少し面白くないような顔をしたが、それで縁が切れるわけではなく「正室」との繋がりを持ち続けることが可能ということを強調すると、納得してくれた。
さて問題は両親だ。
ただ、父親は既に俺が実質上の領主だと思っているので、基本的に俺が何をしようと関係ないという態度を貫くだろう。
俺の嫁が、どこぞの領主の娘という話でもすれば、いろいろ興味を示すかもしれないが、商人の娘ならおそらく何も言ってこないと思える。
問題は母上だ。
おそらく今の母上なら、関心が既に弟に移ってしまっているので、俺が誰と結婚しようとも何も言ってこないだろう。
それはそれで簡単で良いのだが、以前は同行の小夜にさえあれだけ言ってきたのに、正室にさえ何も言ってこないであろうという今の状態(無関心)はかなりつらいものがある。
以前の様に文句の一つでも言ってくれれば、俺に対する関心が復活したと喜べるのだが、何もなければそれはそれで悲しい。
つまり、母上に報告した際に、文句を言われも困るし、文句を言われなくても困るという、どちらにしても「困る」しかないという最悪の状態に陥っているから悩んでいるのである。
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