第115話 雅
どうしたら良いかと考えるが、どうも良い方法が浮かばない。
というか、俺は隠岐のことを殆ど知らない。
「相手を知らずに方法を探すのは俺の性に会わない。」と開き直って辺りを見回すと、最初から考えることを放棄して暇そうにしている小夜と目が合う。
このままでは、如何にも最初から何も考えていなかった様に思われかねないと焦る。
さて、もう一度考えようかと思った時、急に「水穂に連れて来る方法を考えるから難しいのであって、隠岐から出ることだけを考えれば、良いのではないか。」と思いあたる。
同時に「隠岐から出るだけなら、簡単な方法があるではないか。」と思いつく。
簡単な話だ。浮浪者狩りに捕まれば、良いのだ。
浮浪者のふりをすることはそれほど難しくない。
問題は職人が失踪したという事実を如何にごまかすかだけだ。
ただ、彼らも人間だ、喧嘩をすることもあれば、不幸な災難に巻き込まれることもあるだろう。
突然病気になることだってないとは言えない。
そう考えると、いろいろ細かいところは皆とつめていかなくてはならないが、何とか行けそうな気がしてきた。大筋では問題ないはずだ。
皆に俺の意見を話して、意見を聞くと、賛成してくれた。
一名よく分かっていない者がいるが、気にしたら負けだと思うことにする。
そんなことを考えていたら、藤五郎が急に娘を紹介したいと言ってきた。
突然どうしたのかと思ったが、「これからも末永くいろいろお付き合いをしたいので・・・」といろいろ気になることを言ってくる。
俺にその気はなかったので、席を立とうとしたら、藤五郎が両手を叩いて、人を呼んでいた。
呼ばれて入ってきた女と半分立ち上がっていた俺の目があう。その女性を見て、俺は思わず息をのんでしまった。
まず印象的だったのが、長い黒髪で、本当にきれいだった。あれだけ長いと手入れが大変だろうが、「見事」という言葉がぴったりなほど手入れが行き届いており、かなりの手間暇をかけていることが一目でわかる。
顔は切れ長の目が、これまた印象的で、鼻筋も通っており、間違いなく美しい。
その顔立ち、髪、どれもが本当に「印象的」という言葉がぴったりの女性で、道を歩いていれば、間違いなく大勢の男が振り返るであろうという感じの女性だった。
そして、着ている服もその顔立ちにあった青を基調した印象的な着物で、俺に会うために特別に用意されたものであることは明らかだった。
見とれていると、「御気に入りましたでしょうか?」と藤五郎が聞いてくる。
癪だが、今さらこれだけ呆けたところを見せた後で、どうつくろったところで、無駄なので正直にうなずく。
「彼女は・・・?」と問いにならない問いをすると、藤五郎が、「私が小さい頃から娘の様に面倒を見ている者で、名を雅と申します。」と応えてきた。
まさに、名は体を表すというもので、雅という名前がぴったりの女性だった。
「もしよろしければ、お側においてください。」と言われ、思わず顔がほころんでしまった。
ただそのあとで、「今後とも末永くよろしくお願い致します。」と不気味な科白を男、それももうすぐ初老に達する男から言われた日には、鳥肌がたってしまい、正気に戻ることができた。
どうも藤五郎にいいようにやられたような気がしないでもないが、雅のことは本当に気に入ってしまった。
姿かたちは当然文句がないが、それ以前に俺の本能とでもいうべきものが、「この女だ。この女に子を産ませろ。」と叫んでいるような気がした。
まさに一目惚れとはこうした状態かと勝手に思ったりしていた。
先ほど、鉄砲の部品調達は3年ということで、話がまとまったと思ったが、これはもしかするともっと長くなるかもしれないと思った。
同時に、俺はこれまで特定の誰か(異性)を意識することは全くと言って良い程なかった。
実際、見合いの話が来ても何とか断ろうと必死になっていたし、今回も雅を見るまでは本気で断ろうと思っていた位だ。
しかし、それは俺にそれを意識される誰かに会っていないだけだったとはっきり今、分かったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます