第59話 仕官
話が終わると、そのまま退席したが、途中、思うことがあって、「岩影。」と少し大きな声を出した。
すると案の定、暫くすると「ここに。」という声が聞こえて、人が近づいて来る気配が感じられた。
「今の話を聞いていたか?」と尋ねると、「聞いておりました。」と答えて来る。
「だったら俺から話があるので、主だった者を集めて、俺の部屋に来る様に。」と伝えた。
岩影が集まると、俺は「既に話は聞いていると思うが、こんど岩影一族を武士として、取り立てることになった。」と告げた。
俺はてっきり、「水穂を解放する。」と克二が告げた時の様な、どよめきが起こると思っていたが、皆基本的に下を向いたままで、大きな反応はない。
しかし、注意して見てみると、肩を震わせて泣いている者が大半だ。
どうしたものかと思っていると、玄悟が、いきなり顔を挙げて、「ありがとうございました。」と言ってきた。
すると、皆、それに続く形で、「ありがとうございました。」と声を合わせてきた。
皆、声が震えていた。
そして、「これも聞いていると思うが、皆は俺直属となった。これまで以上に励んでくれ。」と続けた。
「ははっ。」と頭を下げる岩影達。
一息ついて、「相談だが、小夜を初め使える者は、女でも武士として取り立てたい。」と玄悟に声をかけた。
そして、「誰を取り立てるかの選任は任せるが、当然どんな者が、俺の直属になるのか把握はしておきたいので、名前とどんな秀でた能力があるのかを簡単にまとめた名簿を後で、提出してもらいたい。」と続けた。
するとそれを聞いて、玄悟は「お待ち下さい。古今おなごが武士などと言う話は聞いたことがありません。お考えなおしになっては。」と言ってきた。
それを聞いて、俺は「これは不思議なことを、岩影が武士になるなど、これもこれまでなかったこと。それが今回初めてかなったのであれば、女が初めて武士に取り立てられたとして、何の不思議もあるまい。」
と答えた。
玄悟は、それでも少し不服そうにしている。
そこで、「先に言った様に、皆は俺の直属だ。誰をどう取り立てるかの最終権限は俺にある。そうである以上、今回の決定も最終決定である。それだけは理解してもらいたい。」と言うと、玄悟も観念したように、頭を下げた。
そして、「十蔵から聞いたが、」と前置きをしたうえで、「今後は岩影ができることとできないことを予め正確に話しておいてもらいたい。」と伝えた。
かしこまる玄悟。
「まず、確認しておきたいのだが、水穂城内で呼べば大体誰かが来るが、それは他国の城でも可能か。」と尋ねた。
玄悟は、「それは無理にございます。水穂は我らが長年かけて見つけ出した秘密の通り道などがあるため、だいたいどこでもお呼びいただければ、すぐに参ることが可能ですが、他国の城ではそうはいきません。」と答えてきた。
「では、情報収集はどうだ。他国で先程の様に、領主が話している内容を聞き取ることは可能か?」と聞くと、「状況によります。」と答えてきた。
どういうことか、具体的な説明を求めると、通常どこの国にも岩影のような、裏家業をするものがいて、城内にはその者がいることが多いが、岩影長年かけて秘密の通り道を作り出したように、その一族も長年かかけて城内で同じようなことをしているとのことであった。
であれば、敵城内では、敵の忍びの方がどうしても有利になるので、実際問題として城に忍びこめたとしても、情報収集は殆ど不可能になると説明してくれた。
三川にも岩影と同じような者がいるのか聞いていると、「いる。」とのこと。
「であれば、暗殺など確かに不可能な話であった。」と厭味ったらしく聞いてみようかと思ったが、どうも俺な何を考えているか玄悟にはわかったようで、「もう、これ以上は。」という顔をしているので、ここまでで解散とした。
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