第49話 夢
「時間にございます。」十蔵の声で目が覚める。
昨日からの寝不足のせいか、どうも頭がはっきりしない。
家臣たちの前に立って、話をしたことが夢のように思われてならない。
「あれは、本当のことだったのだろうか?」俺は思わず独り言をつぶやいていた。
昼間のことを思い出す。
そもそも俺はどうやって家臣たちを説得して良いのか全く考えがまとまらなかった。
父親と話が終わったと思ったら、いきなり克二の手紙が来て、これから戦がはじまるという。
とても落ち着いて考える時間はなかったし、その気にもなれなかった。
「皆を説得できるのか?」そんなことを考えながら、ぼーとしていたら、十蔵が「如何なされました?」と声をかけてきた。
俺は何と答えたらよいのかわからず、黙っていたが、何を考えているかなど馬鹿でもわかる。
十蔵は「説得は難しそうにございますな。」と他人事のように続けた。
俺は思わず腹がたった。
そしたら、これまでのことが走馬灯のように思い出されて、ますます腹がたってきた。
そもそもここまでお膳立てをしたのは俺だ。
家臣は何もしていない。そのくせ、頑張っている俺に対して文句ばかり言ってくる。
そもそも、水穂がこれほど弱くなければ俺は人質として三川に行く必要などなかった。
そうすれば、居候先で肩身の狭い思いをする必要もなかった。
学校に行って無理をして同級生と仲良くする必要などもなかった。
どれもこれも、水穂の国のためと思って頑張ってきたのではないか。
そしたら、急に腹が立って腹が立ってたまらなくなってきた。
十蔵は、そんな俺を面白そうに見ていた。
「変な奴だな。」思わず言葉が口をついて出た。
急に笑みがこぼれる。
先ほどまでどう説得するか悩んでいたのが、馬鹿馬鹿しくなった。
土台、小国とはいえ、それなりの家臣団はいる。それを1人1人どう説得するというのだ。
理屈で「このままでは国が亡ぶ。」と言っても、どれだけの者が実感してくれるだろう。
下手をすれば、そうしたのは俺ではないかと言われてお仕舞だ。
確かに、水穂はこのままでは未来がない。
しかし、それでも良しと思う者が少なくないことも確かだ。
三川の支配は過酷だ。しかし、少なくとも生きてはいける。
だから皆これまで我慢してきたし、これからも我慢できると思う者もいるかもしれない。
だったら、どう説得すれば良いと考えたが、どうも理屈で考えても良い考えてが浮かばない。
「十蔵、皆の前で、思いっきり怒ってもよいか。」ふと、そんな言葉が出た。
十蔵は、「その方がよろしいのでは。」と涼しい顔をして言う。
とりあえず、俺は苦労してきたし、水穂のためと思って努力して頑張ってきた。その苦労を皆の前で思いっきり爆発させてやろうと思った。
そしたら、俺に文句をいっていたという家臣団にも腹がたってきた。
こいつらも少し苦しめてやれ、大広間ではなく、庭で立たせてまま話を聞かせてやれという気になった。
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そんなことを思いだしていた。
それが何故ああいう演説になったのだろう。
それ以前に俺は何故、家臣団に最初に謝ったのだろう。
自分でも良くわからないが、無我夢中だったことは確かだ。
ただ、葛川に対して激しく怒っていたことも確かだ。
そして、その怒りを家臣も共有してくれたことも確かだ。
皆内心は間違いなく、怒っていたのだ。それが俺の言葉で表に出たにすぎない。
そんなことを考えながら、服を着替えていた。
同時に、感情は怖いと思った。
俺は最初理屈で家臣団を説得しようとした。そしてそれができると思っていた。
だが、仮にできたとしてもどれだけの時間がかかったことだろう。
出陣に間に合ったとも思えないし、俺の体力が持ったとも思えない。
それがあの短時間でまとまってしまったのだ。
それに、家臣を立たせていたことが、皆の感情を高めたのは間違いないと思ったりもした。
「怪我の功名だな。」また独り言がでた。
もしかしたら、あの場には俺の意見に反対の者もいたかもしれない。
しかし、そんなことは許さないという「万歳」の大合唱。
自分でやったことながら、未だに信じられないでいる。
だからこそ、今一現実感がなく、「夢だったのかもしれない。」と思っているのだろう等と考えながら、皆のもとに向かった。
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