第48話 決起
家臣達が庭に集まってきた。
早くからきた者の中には、立ったまま待たされることに不満の声も聞こえて来る。
皆が集まった頃合いを見て、俺と父親が前に進む。
先に父親が壇上に上がり、「今日は良く集まってくれた。息子の茜から、水穂の未来を決めると言っても過言ではない大事な話があるから心して聞く様に。」との前ふりがあった。
家臣団からざわめきが起こる。
続いて壇上に上がる俺。
皆を見渡して、まず深々と頭を下げた。
家臣団のざわめきが益々大きくなる。
そして、「いまの謝罪は、俺が勝手にことを進めたことへの謝罪だ。」と精一杯の声を出した。
「しかし、悔しくないのか?あの成り上がりの葛川に好き勝手やられて。なぜ愛すべき自国の民たちにかけたくもない重税をかけねばならないのだ。なぜ葛川が勝手に始めた戦に参加しなくてはならないのだ。」
「そして、なぜ死んでいかなくてはならないのだ。」
「なぜだ!」俺は力の限り叫んだ。
少し声の調子をおとして、続ける。
「理由は簡単だ。葛川が強いからだ。我が国の10倍以上の兵力をもち、歯が立たないからだ。」
「しかしいまの葛川家は違う。国が2つに別れ、互いに争っている。」
「今我が軍が加勢をすれば、間違いなく、加勢した方が勝つ。」
誰かが「勝てますか?」と呟いた。
俺はそれを聞いて、「勝てる!」と力の限り叫んだ。
更に、「そうなれば、我が国は解放される、自由になれる。」と続けた。
「自由になれば、民を苦しめることもなければ、訳のわからない戦争に参加して、死ぬこともない。」
家臣達の雰囲気が変わってきたことが肌で感じられる。
「そのためには戦わねばならぬ。ただ、さっき言った様に間違いなく勝てる戦だ。今すぐ、準備をし、明日の朝、敵の背後をつきさえすれば、それで自由になれる。」
「これは葛川に命令された戦ではない。俺達が自分達のために自分達で決めて戦う戦だ。」
「決めてくれ、このまま、あの成り上がりに言い様にされたままでいるか、戦って本当の自分達の国を勝ちとるか?」
すると、一人が「葛川の支配はもう御免だ!」と叫んだ。
「今日、今、これから軍を動かせば、明日にはそれがかなうのだ。」と俺もそれに応える様に大声で叫ぶ。
それを聞いて、沸き上がる歓声。
もう、その後は、自分でも何を言ったか良く覚えていない。
ただ、家臣達が「水穂の国、万歳!」と叫ぶのに合わせて、何度か「万歳!」と叫んだのだけは覚えている。
そして、皆が「戦だ!戦の準備だ!」と口々に叫び始めた。
それを受け、片桐慎介が壇上に上がり、集合時刻を伝える。
家臣達は、「わかった。」とうなづくや、明らかにさっさと自分の家に帰って戦の準備をしたそうにしている。
これを見て、慎介が「解散!」と告げると、家臣達が我先にと帰って行く。
誰かが、俺に「若、絶対勝ちましょう。勝てますよね。」と言ったが、俺はもはや疲れきって、それが誰だかすらわからない。
かろうじて、うなづいたとは思う。
正直立っているのもやっとだったので、脇にいた十蔵の肩をかりて隠れるように、その場を離れた。
「集合時刻には起こせよ。」そこまでは言った記憶があるが、どうやら、そこで俺は力尽きて、意識をなくしてしまった様だ。
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