第28話 同級生

 道場での一件以来、俺に対する見方が大分変った。

 俺が挨拶をすると少なくとも、皆返してくれるようになった。

 一番変わったのが勝間であろう。

 今までは何かあると、多助や川路にちょっかいを出してきていたが、そうしたことはなくなった。

 試合をしたときは、納得していなかったようだが、俺が信義に勝ったこと、それ以降、2人して剣の練習をしていることを知り、俺に一目置くようになった。


 学生たちの間では、当然親の身分がものを言うが、それにもまして「武」というか「力」というものは分かりやすい。

 力を示せればそれなりに敬服させることができる。

 学校の方はこれで何とかなったと思う。

 徐々に話をする人も増えてきたし、これから友人と呼べる者を増えていくだろう。


 克二と西の方と三者会談の後、俺は信三のところに訪問する回数を意図的に減らしていた。

 克二と信三が仲たがいをしているように見せるためだ。

 まず、信三が克二から借りた刀を失くした等というくだらない噂を流し、どうもその結果2人が喧嘩をしたようだということにした。

 ここいらは西の方の独壇場で、仕える女中たちを使ってあっという間に噂が広げたが、女の口はすごいと本当に思った。


 信三はかなり不満だったようだが、実際、今では信三も大分外に出て遊べるようになっていたので、何とか納得してもらった。

 その時間を使って俺は、信義とひたすら剣の修行をしていた。

 彼の剣はわかりやすい。

 ひたすら速さを重視する剣で、型を矯正してもらいながら練習に励んだ。


 俺も関節技の基本的なことを彼に教えた。

 ただ、彼の場合、加藤流というか、足さばきについては既に確立したものを持っていたので、下手に格闘技を組み込んだ剣術を使おうとするとかえっておかしくなってしまうようだった。

 そのため、剣術とは別に剣をもっていないときの対処法として関節技を中心に教えることとした。


 信義との練習で、何といってもありがたかったのが、隠れて練習しなくても良いことだ。

 同級生との修行であれば、誰に見られても困ることはない。

 それどころか、学校が終わっても熱心に修行しているとかえって評価もあがるという話だから、とてもありがたかった。


 こうしたことを続けていくうちに明らかに俺の回りに人が集まってくるようになった。

 最初はやっかみでいろいろ言われていたが、俺も相手を馬鹿にするような態度をとって、同級生を拒絶するようなところがあったのもまずかったようだ。

 確かに、親の身分差とかいろいろあるが、学校で学び、共通のことをやっているときは、同じことを目指しているものとして連帯意識が生まれやすい。


 一度信義の家に遊びに行って以来、他の家にも呼ばれるようになった。

 ときには、同級生の父親にあたる当主と会うこともあったが、直接彼らを見ることができた意義は大きい。

 以前にもまして岩影から三川の国の家臣団の情報は入ってきていたが、やはり自分で見るのと報告を聞くのとでは大違いだ。

 また、同級生とは親の悪口で盛り上がることもあったが、そういう時に聞ける話は、家族以外は他の誰も知ることができないものだったがから、本当に役になった。


 何といっても俺がびっくりしたのは、あの勝間も家に招待してくれたことだ。

 どうやら俺が学内の主だった連中の家を訪問するようになったのにつれ、自分のところに来ないのはケシカランとでも思ったらしい。

 もちろん、喜んで招待されていった。


 訪問して驚いた。傍系とは言ってもさすがは青柳家、見事な門構えだ。

 俺たちが門を入るとかなりの数の出迎えがある。

 どうやら俺に力を誇示したくてたまらないようだ。

 「これは、これは」と大げさに驚くと、嬉しそうに中に案内してくれた。

 当主の青柳勝巳と会うことができたのも大きい。


 俺は学校という「宝」に今更ながら感謝した。

 特にこれは最初から俺の目の前にあったものだ。以前は、効果的に利用できなかったことが恥ずかしい位だ。

 「きちんと整理されていない資料、すぐに使えない資料は、ないのと同じだ。」まさに父親に言われたとおりだ。

 いくら自分で持っていても(目の前にあっても)、その価値に気付かなければ無いのと同じだし、効果的に利用できなければ意味がない。

 「まさにその通りだ。」とつくづく実感した。

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