第951話 冷たく、寒々しい我が家

そこは何処をどう見ても個人の家という雰囲気の建物ではなかった。

厳重な警備が引かれ、物々しい迎撃用の武装が建物の外壁や周辺に見えている。

大きなだけの住居であれば大富豪であればあるいは居住することもあるのかもしれない、だがコンスタリオが自宅と称したその建物は単なる豪邸というレベルを超えていた。


「いえ、此処って……どう見ても防衛部隊の総司令部にしか……」

「そう、その総司令部が私の自宅なのよ」


その発言を聞いたシレットとモイスは更に表情を歪ませる、総司令部という建物自体は無論二人もこれまで何十回も目にし、耳にしてきた建物ではあるが、そこを住居としている等という話はそんな彼等でさえもこれまで一度たりとも聞いたことが無かったからだ。


「そんなに驚く程の事?総司令部だって建造物なのよ、そこに住んでいる人が居たとしても不思議ではないでしょう?」


コンスタリオの発言は確かに正論ではある、だがそれを聞いても尚、シレットとモイスの中には拭い去れない違和感があった。

此処は防衛部隊の大黒柱であり、個人経営の商店に住んでいるのとは状況が明らかに異なっているのだから。


「でも、隊長はさっき此処には誰も住んでいないって……」

「ええ、確かに生命は誰も住んでいないわ、だけどね……」


コンスタリオはそう告げると先導して建物の中に入っていき、眼の前にあったエレベーターを起動して何処かの階へと移動する。

その移動は明らかに躊躇いがなく手慣れたものであり、それを見たシレットとモイスはコンスタリオの先程の発言にあった此処に住んでいたという言葉が改めて事実であるという事を実感せざるを得なかった。

そしてエレベーターが止まるとそこには目の前に通路が広がっており、奥と周囲には扉がある。

その光景自体は他のタウンの総司令部と同様であり、シレットとモイスにも見慣れた光景だ。

だが今回は光景自体は同じであろうともその彼等を取り巻く環境や空気が明らかにこれまでと異なっていた、何より空気が何処か寒々しく重い。

敵襲を受けているわけではないにも関わらず何故こんなに空気が重いのか、シレットもモイスもその点を理解しかねていた。


「さあ、此処がエアロタウンの総司令部よ」


コンスタリオがそう告げて扉を開ける、するとそこには他のタウンと同様に大規模なモニターが設置されては居たものの、それ以外には生命も機器も存在していなかった。


「ここが総司令部……ですが……」


シレットがそう言いかけるとコンスタリオは黙ってモニターの電源を入れる。

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