第939話 信頼は立場を超えて

「なら、それを伝えるのは……」

「当然、私の役目よ。

何時もやっている事なのだから特に不信な事はないでしょう」


天之御が確認するような言葉を口にすると星峰は即答する。

最も、その直後に天之御は案の定とでも言いたげな、一方で何処か安心した表情を浮かべた為、ある意味では態々言う必要もなかったのかも知れない。

天之御自身、内心の何処かでそう思っている部分が少なからず存在していた。


「なら、そっち方面は涙名と星峰に任せて、僕達は暫く歴代魔王の資料室調査に専念するとしようか」


天之御の発言に異を唱える者はその場に居なかった、だが天之御の発言は単に資料を調べるという意味だけではない、その言葉の中には父以前の先代魔王がブントに属していたことに対する軽蔑の様な意味が感じられた。

いや、実際軽蔑しているのだろう、魔王という重責がある立場にありながら戦乱に加担し、私腹を肥やす事に取り憑かれていた先代魔王に対して軽蔑の念を抱く事は格段不思議なことでも無い。


「天之御……あまり気負いすぎないようにね」


その内心を察したのか、涙名がふと天之御に対して呟き、それを聞いた天之御は黙って首を縦に振る。

やはり先代がブントに加担していたという共通点があるが故なのか、天之御が内心何を思っているのか、涙名がどういう意図でその言葉をかけたのかは口に出さずとも伝わっている様だ。

いや、寧ろそうした共通点があるからこそ通じるものがあるのかも知れない。

そのやり取りを見て首を傾げている周囲を見るとそう思わずにはいられない空気が漂っていた。

そのまま一同は解散し、それぞれの自室へと戻っていく。

だが涙名だけは自室には戻らず星峰に同行し、彼女の部屋の中に入っていく。


「あら……メッセージは任せてくれるんじゃないの?」

「勿論任せるよ、信頼してない訳じゃない、只、久し振りにコンスタリオ小隊の文章のやり取りを見てみたくなっただけ」


星峰の誂うような言葉に対して涙名は合わせる様な口調で切り返す。

実際彼等の間にある信頼は以前から立場を超えた強さを持っている事は周知の事実であった、この軽口も寧ろその信頼があるからこそ通じるものだろう。

部屋に入った星峰は早速端末を開き、コンスタリオ小隊に送信する文章を作成し始める。

そして文章の作成が終わり、それを送信するとふと口を大きく明けてしまう。


「あら……私とした事が端ないわね……」


星峰がそう呟くと涙名は


「お疲れ様、今日はもう休もうか、僕もそうするよ。

もしかしたら又夢の続きが見られるかも知れないし」


と告げて星峰の部屋を後にする。

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