第918話 迷い持つ司令

天之御と涙名はそう語る司令官の顔をじっと見つめているが、司令官の顔は虚言を吐いているようには見えない。

司令官自身も今回の襲撃に同様を隠しきれていないというのがその表情から感じられる様な印象も感じていた。


「それは分かった、で、通信機器が作動しなかったというのは?

既に兵士から聞いている事なんだけど、此の司令部においてもそうだったの?」

「ええ、襲撃と時を同じくしてほぼ全ての通信網が遮断され、外部は疎か内部の通信すら出来なくなりました。

それも司令部も含めて……

更に司令部においてはモニターやレーダーにも支障が出ていました」


司令官がそう言うと天之御は何も言わずにその場にある機器の電源を入れ、その動作を調べ始める。

すると司令官の言う通り、今回の襲撃が始まったのとほぼ同時刻にシステムがダウンしたという記録が残されていた。


「システムダウンの記録が残っているって事は少なくとも機器そのものが故障した訳じゃない、やはり外部からの干渉で動作しなくなったと考えるのが一番分かり易いね」

「うん、問題はどうしてそんな状況に一気に陥ったのか、そして僕達が使用している端末は問題なく動作していたのか、その点だね」


システムダウンの記録を確認した天之御と涙名がそう口にした瞬間、司令官の顔色が微かではあるが変わったのを二人は見逃さなかった。

いや、正確に言えばその反応を伺っていたというべきだろうか。

二人にとって此の点は、少なくとも後者の答えは既に出ていた。

それを敢えて口に出したのには当然理由があるからだ。


「とにかく、その点については僕達の方でも調べて見る必要があるね、君達には至急今回の襲撃についての被害、問題点、概要等あらゆる点を纏めて資料として提出して」

「りょ、了解しました……」


天之御がそう告げると司令官は何処か歯切れの悪い返答をし、それを聞いた天之御は黙ってその場を後にする。

それを確認すると天之御は涙名と共に黙ってその場を後にする。


「一体何だったんです、今回の襲撃は……あんなの予定には……それに、もうこれでこの街の事も報告しなければならなくなりました……本当にこのまま上に従っていて良いのでしょうか?」


二人が立ち去った後、司令官はふとこう呟く。

やはり此の司令官もブント所属なのだろう、だがその口調には迷いがあるようにも聞こえる。

一方、司令室を後にした天之御と涙名は


「今の司令官、どう見ても……」

「うん、虚言を吐いている様子じゃなかった、となると……」


と何かを懸念している様子を見せる。

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