第886話 空狐が知った経緯

「つまり、それだけ其の力を使った際の負担も大きく、そう易易と使える能力ではない、そういう事なんでしょう」


ここまでの話の流れから推測したのか、星峰がそう告げると天之御は


「星峰の言うとおりだよ、魔王秘術の消耗は通常の妖術とは比べ物にならない位激しいものがある。

はっきり言って今の僕では三発以上続けて撃ったらこの体がどうなるか……」


そう告げる天之御の声はいつになく弱気なものであった、それだけ魔王秘術の対価は大きいという事なのだろう。

周囲の面々も天之御の表情だけでそれが伝わってくる。

その表情は一見すると何時もと変わらないようだが、其の裏には明らかに暗い何かが感じられた。

そしてそれが代償による不安であるということは容易に想像出来た。


「そして、空狐だけは其の存在、性質を知っていた、だから天之御が何をしようとしているのかを察して大声を出した。

要はそういう事なんでしょう」


星峰がそう空狐に問いかけると空狐は黙って頷き、それが正しいという事を無言で証明する。


「空狐……一体君は何処でそれを……いや、君が叫んだ時点で君が知っていたのはわかったけど……」


そう言葉を続けたのは天之御であった。

この言葉から察するに天之御も空狐が秘術に付いて知っている事は把握していなかった様だ。


「殿下がそうおっしゃるということはつまり、殿下も預かり知らぬところで空狐は其の秘術について知ったということなのですか?」


岬がそう問いかけると空狐は


「ええ……魔王妖術について知ったのはあくまで私が独自に調べたからよ……いえ、調べたとは言っても其のきっかけは全く想像もしなかった事だけどね……」


そう告げた空狐の声は何処か後ろめたさ、申し訳無さを含んでいる様に聞こえた。


「一体、何時空狐は天之御殿下も話した事が無い話を知ることが出来たの?」


涙名がそう問いかけるのは当然であった、天之御自身が話した事がない上、星峰が其の言葉を口にしていないという事は星峰と出会う前までは知らなかったのだろう。

其の事を踏まえればこそ、空狐が知った経緯に対する疑問が浮かんで来る。


「私が魔王秘術について知ったのはこの呪われた血筋の因縁に終止符を打ってからの事よ。

あの呪われた一族が集めていた資料の中に何か今後の戦いで役に立つ情報が含まれているかも知れない、そう考えた私は作戦の合間を縫って奴等の資料を調査することにしたの、まあ、ある意味では遺品整理とも言えるわね」


そう語る空狐の声は少々自嘲しているようにも聞こえる。

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