第830話 凄惨なる海

「ええ……そういう事よ。

これがブントに作り出された生命の末路……なんて言葉で片付けられる話じゃないけどね!!」


モニターを見て明らかに動揺する八咫に対し空狐はこう言い切る。

八咫が動揺した光景、それは要塞の市街地部分に駐留していた生命が互いを、或いは自分を銃で次々と撃ち抜いていき、その場に流血して倒れていくという凄惨この上ない光景であった。


「酷い……どうしてこんな……」

「恐らく要塞が陥落した、或いはサルキスが死んだ場合、即座にその口を塞ぐ様に組み込まれていたというのが妥当な線ね。


空狐が呆然としているとそこに星峰が補足の説明をつける。

その口調は一見すると何時もと変わらず冷静であるように見える、だが一同には分かっていた、その内心には確実な怒りが込められているという事を。

先程の八咫への返答の際に発した星峰の言葉に怒りが込められているのを一同は見逃していなかった。

星峰の明らかな怒りを感じつつも一同には掛ける言葉が見つからず、ただ見守ることしか出来なかった。

それに怒りを感じているのは星峰だけではなく、他の一同も同様であった。

だからこそ余計に星峰に対しかける言葉が見つからない。

それは同時に自分自身に対して掛ける言葉が見つからないということでもあった。

各々が怒りを内心に留める中、血の海と化した市街地部分を見て涙名がふと


「で……これからどうする?殿下の所に行く?」


と呟く。


「……そうね、此の一件も含めて報告する必要はあるわ、そして、事もあろうにサルキスを取り逃がしてしまった事も」


星峰もこう呟き、一同は天之御の元に向かう事を決める。

その為の転移妖術を星峰が発動させ、そのまま一同はブエルスへと戻っていく。

すると天之御は既にブエルスへと戻っており、何時も通り謁見の間に着く。


「あら……もう戻っていたのね」

「ああ、あの兵器については何時も通り彼処に運んで解析をしてもらっているよ。

君達の方は……朗報では無いみたいだね……」


星峰の問いかけに対し答える天之御、だがその直後に空気を察したのか朗報が聞けないであろう事を予測する。


「ええ、しかも残念な報告は一つじゃない、二つあるの……」


と星峰は前置きをした上でサルキスを手にかけられた事、市街地部分の住民が殺し合いをした事を天之御に報告する。

それを聞いた天之御は


「そうか……そんな事が……」


と静かに告げる。


「あんな事までやるなんて……ブントはやはり許す事は出来ません!!」


空狐がそう声を荒げると天之御は


「うん……全くもってその通りだね」


と静かな声で同意する。

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