第795話 紛い物の亡霊

八咫が模造品と言い切ったのはその光の玉の消滅の仕方にあった。先史遺産で交戦した光の玉が実体化した人族は例外無く雲散霧消していたのに対しこの生物はその場に体を少しの時間残している、つまりは通常の人族と変わらない形で消滅していたのだ。


「消滅の仕方までは再現する必要はねえって訳か、それとも知らなかったのか……

何れにしても腹立たしい話ではあるな」


八咫がそういった次の瞬間、そんな内心を嘲笑うかの様に光の玉が次々と現れ、八咫の周囲で実体化していく。


「ちっ、俺の逆鱗に触れた事がそんなに気に食わねえのか!!

それとも此処にはこれだけの用心棒が必要ななにかがあるってのか?」


八咫は一瞬疑問を口にしつつもその内心には抱いている怒りの方が強く出ていた。

それが言動にも現れているのか、出現した光の玉に対して直ぐ様交戦体制を取る。


「黒羽乱舞、風輪!!」


そう叫ぶと八咫は黒羽を回転させて風を起こし、その風を鋭い刃と化して実体化する直前に光の玉にぶつけ消滅させていく。

実体化する前に消滅するという事実も又、この光の玉が先史遺産で交戦した生物ではない紛い物であることの証明であった。


「紛い物をこれだけ配置しているとはな……一体何が目的でこんな物を配置してやがる……」


八咫が内心で抱いた疑問はより強まり、その疑問はその足を奥にある扉へと突き動かしていく。

そしてその扉に手をかけようとするが、八咫の目は見逃さなかった。

その扉が一瞬ではあるが確実に揺らぎのような物を見せたのを。


「ちっ、これもそういう訳か!!」


八咫はそう言うと扉から離れ


「黒羽の毒矢!!」


と言って離れた場所から羽をまるで矢の様にしてその扉に撃ち込む。

するとその扉は一つを除いて溶解し、その場に広がっていく。

そう、その扉も又擬態兵器だったのである。


「ブントの連中が考えそうな事だぜ……だが、その中にも一つだけ本物があるってことは、やはり此処には何か隠された物がある……そう考えてもいいんだろうか」


一つだけ扉に本物があったという事実に八咫は逆に疑念を抱き、ゆっくりと扉に近づいていく。

矢は確かに扉に突き刺さっており、その扉が擬態兵器でない事は証明されている。

そのまま扉に近付き、そっと取っ手に手を伸ばして回すとその奥には試験管の様な物、そしてその中で育成される生物という先史遺産、そしてこれまでのブントの施設で幾度と無く目撃してきた光景がまたしてもと言いたくなる形で広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る