第720話 泥沼の陰謀

だがその場に居る全員の顔は何れも疑念に対し思考を張り巡らせているという様な表情ではなかった、寧ろ既に何らかの結論が出ており、其れを裏付けるという様な確信に満ちた表情であった。

全員がそうした表情を見せているという光景は傍から見ると異様な雰囲気すら感じられる。


「この兵器の出現により泥沼へと陥った戦争はやがてそれを利用し私腹を肥やす奴等に利用される事になる……歴史書の続きにこの一節を記述出来る様に早くしたいものね。

その為にも今、ここで出来る限りの事をしていかないと」


星峰はそういうと資料に目を戻し、その一部始終を調べていく。

それに習うかのように周囲の面々も手元、或いは壁にある資料へと目をやり、一つ、また一つと分厚い資料を調べていく。

すると今度は岬が


「コレ……何か関係ありませんか?」


との一声を上げる。


「岬?何か見つけたの?」


空弧がそう岬に問いかけると岬は


「星峰の言っていた泥沼の歴史に突入して百年程経ってからの事なのですが、終わりのない戦争で疲弊した人族、魔神族はその戦乱を終わらせる為、和平交渉の場を設けたのです。

ですが交渉当日、しかも交渉の最中において会場に仕掛けられていた爆弾が爆発、双方の交渉代表者がそれで命を落とした結果、益々戦争は激化するという事態を迎えました」


と記述されている資料を一同に見せ、自身の言葉で読み上げる。

その言葉はあくまで資料を読み上げているだけなのだが、岬の言葉からはそれに対する怒りが静かに感じられる。

淡々と抑揚無く読み上げるその言葉は周囲から見ると逆に怒りを感じさせるのに十分な物であった。


「つまり、その百年の間にブント、又はその前身となる組織が生み出されたという訳ね。

そう考えれば爆弾で交渉が妨害された理由も辻褄があう、いえ、それ以外に辻褄が合う理由は無いわ」


岬の読み上げた内容に対し、空弧はこう続ける。

空弧の言葉にも又怒りが感じられた、命の尊さを知らないからこそ出来る様な悪魔の所業とでも言いたげな口調である。

其処に加担していた嘗ての家族の事を思い出しているのだろうか。


「当然、双方は相手の陰謀だと罵ったんだろうね、そしてもう一点、会場で爆弾が爆発したにも関わらず周囲が誰も気付かなかったと言う事は」

「余程巧妙な場所に仕掛けられていたか、或いは……可能性が圧倒的に高いのは後者の方ね」


涙名と星峰が話す更なる仮説に対し異を唱える者は居なかった、その考えに全員が同意していたからだ。

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