第557話 根拠なき確信

「……そうね、それが今私達に出来る唯一にして最大の事かもしれないわね」


シレットの言葉を聴き、コンスタリオはその言葉を肯定する。

シレットの言葉が無理矢理にでも前向きに物事を捉えようとしている様なか細く頼りない物である事はコンスタリオは勿論の事、モイスも雰囲気で感じ取っていた。だが二人とも敢えてそれを口には出さない、其れを口に出せばシレットの内面が崩れてしまうかもしれないという懸念が二人の中にあったからだ。


「今後の俺達の方針は決まったな。だが、前に進むと言ってもどうするつもりだ?」


何時もは猪突猛進しがちなモイスが今回は珍しく今後の方針について口を出す。

其れを聞いてシレットは


「モイスらしくない発言ね。まあ、その内容については私も同意するけど」


とモイスを揶揄う様な、感心している様な、どの何方ともとれる発言をする。その様子を見てモイスは不満半分、安心半分と言った表情を浮かべてシレットの顔を見る。

先程の質問にはシレットの激励と言う観点も含まれていたのだろうか?


「そうね、確かにここで間違えるとそのまま迷宮に迷い込む事になりかねない。その可能性を考慮するとここは……」


と言い、目の前にある端末を起動させて通信機能を起動させ、誰かへとメッセージを送り始める。


「隊長?また誰かに……いえ、誰かではありませんね。メッセージを送る相手は」


端末の画面をのぞき込みかけたシレットだったが、その相手の見当がついたのか途中で覗き込むのを止めてしまう。だがそのシレットの予想は的中していた。


「って事はつまり、あいつに送るのか?これで又何か情報が得られるといいんだがな……」


モイスもそのメッセージの送信先がスターである事は察しがついた、だがそれに続く言葉からは少なからず不安が混じっている事が感じられた。

スターへの信頼が揺らいでいる訳ではない、だが情報の提供を行っていながら一向に姿を見せないスターの状況にどこか不安を抱いているのも確かである。


「恐らく何らかの情報は提供してくれるでしょう」


そう言い切るコンスタリオの言葉は何処か自信が感じられた、その返答を聞いたシレットが


「一体その根拠は何なんです?」


と問いかける。今のコンスタリオの発言はシレットも思わず根拠を聞かずにはいられない程強く言い切ったものであったからだ。だがそれに対する返答は


「根拠と言えるものはないわ。ただ、そう思えるだけ」


と言うシレットの期待した返答からはかけ離れた物であった。

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