第403話 稚児の亡霊

「一寸八咫、大丈夫なの!?」


先先と足早に進んでいく八咫に豊雲は思わず心配そうな声を上げる。


「ああ、大丈夫だ。これでも生まれた場所だからな。土地勘はある」


八咫はそう言い、豊雲に返答だけすると更に先へと進んでいく。だが豊雲の不安は今ここを先先行っている事から生じているのではない。焦りや苛立ち、そう言った物を八咫から感じ取れるからこそ心配になっているのだ。だがそれを口には出せない。

そうこうしている内に八咫と豊雲は地下施設の中にある大広間の様な場所に出る。そこは無造作に玩具が転がっており、人が居ればまるで幼稚園や保育園の様な形相を現していた。


「これは……ここで保育や育児でもしていたの?」


豊雲がその光景に思わず呟くが八咫は


「保育……だけならいいんだけどな」


と驚きではなく、寧ろ嫌悪感や不快感を露わにする。その言動から豊雲が


「八咫……やはり君は何かを知っているんだね。この施設の事を。それもかなり深い所まで」


と察するがその直後、部屋の雰囲気が変わり、一面に青い光の様な物が現れ始める。


「な、何!?一体何が……」


豊雲が困惑し始めるとその光は徐々に人族の形を取り、この部屋に居たと思われるような幼い子供の外見を取る。


「サミシカッタヨ……」


そう声が聞こえ、八咫と豊雲は共に困惑した表情を浮かべる。


「今の声……この光で出来た子供が話したの!?」


豊雲は困惑し、信じられないといった顔で周囲を見渡すが一方の八咫は


「それ以外考えられねえだろ。奇想天外な現象はこれまで何度も見てきてんだ。今更これくらいで驚くな」


とぶっきらぼうなのか冷静なのか分からないような口調で断言する。それを聞いた豊雲は


「あ、ああ……確かにそうだが、これは……」


と言うと周囲を見渡し、同様の青い光が多数発生しているのを確認する。そしてその一つ一つが幼い子供の外見を取り、その場に出現する。その光は口々に


「ツラカッタヨ……」

「クルシカッタヨ……」


と口にする。その言葉はたどたどしく重く、外見通りまだ言葉を覚えて間もない子供が使う様な口ぶりであった。だがそれでも意味とその中に込められた負の思念は明確に伝わってくる。それを証明するかのように


「サア、カマッテヨ!!」


と言う声と共に光で出来た子供達は八咫と豊雲に接近してくる。


「くっ、やるしかないのか!!」


豊雲は槍を手に持ち、八咫も交戦体制を取り、光の子供が接近してくるのに合わせて槍と黒羽を払い打撃を与える。すると打撃を受けた光の子供は吹き飛ぶ。如何やら実体のない亡霊と言う訳ではない様だ。

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