第400話 不可解な増強

「え、ええ……私が星峰ですが……」


目を輝かせている人族女性は星峰に迫り、その勢いに思わずたじろいでしまう。そんな星峰に対し女性は


「もう、ずっとお会いしたいと思っていたんです。八咫様と旦那様からお聞かせいただいた数奇な運命のお話を聞いて以来、ずっと」


と興奮冷めやらぬという雰囲気の早口で話す。収まる気配のないその勢いに星峰も完全に圧倒されてしまい、ここに来た目的すら忘れそうになってしまう。


「こら、星峰様は要件があってここを訪れられたのだ。興奮するのは構わないが、くれぐれも粗相の無い様に」


魔神族に釘を刺され、女性は自身の興奮を止める。そして


「あ……そうでしたね。私とした事が失念していました。で、星峰様、ここへは何のご用件で?」


と言い、星峰に訪れた理由を聞いてくる。すると星峰は


「ええと……今はまだ深くは言えないのだけど、ある件を調査していて、その関連で情報を集めようとしていたらここに辿り着いたんです」


と少し歯切れの悪い説明を行う。歯切れが悪いのは重々承知の上だが、そうせざるを得なかった。ブントの事を直接話すのはリスクが高すぎるからだ。だがその辺りは八咫の親と言うべきか、魔神族が


「それはもしや、ここ数週間の間にこの辺りの街が戦力を増強させている事と関係があるのですか?」


と鋭い勘を働かせる。だがそれは単なる勘とは思えない程具体的であった。その事が引っ掛かった星峰は


「既にその事をご存じだったんですか?」


と魔神族に問いかける。すると魔神族は


「ええ、那智街駐在軍の司令官からこの数週間で近辺の街の戦力が明らかに増強されているというお話はお聞きしています。そして、その動きからその目的は恐らく那智街の制圧にあるのではないかとも予測されています」


と告げる。それを聞いて星峰は驚嘆する。戦力の増強は聞いており、その目的も自身の予測した通りではあったものの、こうして実際にそう話す魔神族が居るとは思わなかったからだ。


「既にそれに対する備えとして、こちらも戦力を増強させてはいます。ですが気掛かりなのは人族、魔人族双方の戦力が増強されているという点です。

どちらか一方ではなく、双方を強化する事で何かを誤魔化したいのでしょうか?」


先程興奮していた女性も落ち着きを取り戻したのかそうした口調で話す。その口調からは星峰の役に立ちたいという思いが感じられる。その思いを感じたのか星峰はその女性に


「ありがとう。お蔭様で考えが浮かびそうです」


と感謝の言葉を告げる。

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