第373話 生命の疑念

「そうかもしれないし、違うのかもしれないわね。何れにしてもデータを何とかして入手しない事には何とも言えないわ」


天之御の疑念に対し、肯定とも否定ともとれる返答をする星峰、だがその返答は彼女自身も又同様の疑念を抱いているが故の発言でもあった。明らかに誰かが生活していた痕跡、それはこの施設が生命が生活する事を前提とする上で作られた物である事を表していたからだ。


「この部屋からはこれ以上情報は得られそうにねえな。早く次に行った方がよくねえか?」


八咫がそう告げると他の面々も首を縦に振り、その場から移動を開始する。だがその直後、又しても機械兵士に見つかってしまう。兵士は直ぐに機関銃を乱射し、入り口近くの壁を穴だらけにする。


「くっ!!一度見つかるとこれか……これはしぶとそうだね!!」


涙名はそう叫ぶと


「漆黒の爪!!」


と言って爪を黒く染め上げ、そのまま振るって黒い衝撃波を放ち機械兵器に直撃させて破壊する。


「この分だと行く先々で襲撃してきそうだね。これは引き際を誤ると……」

「ああ、下手をすれば全滅だ。だからこそ欲張りは禁物だね」


兵士を倒した直後ではある物の、状況がそうさせるのか涙名の言葉には全く余裕がない。そしてそれはそれに対する天之御の返答も同様であった。

その直後から一同は移動を開始し、更に通路の奥へと足を進めていく。そしてその奥にはまた部屋があった。しかも先程より明らかに大きく、如何にも何かがあるという様な空気を醸し出している。


「大きな部屋ね……如何にも何かありそうだし、ここは調べてみるしかないと思いますが」


部屋の調査を提案する岬に空弧は


「ええ、でも気を付けないと鬼が出るか蛇が出るか」


と告げる。だがその直後に星峰が


「いえ、鬼はどうやら扉の中じゃなくて外から来たみたいよ!!」


と後ろを見ながら話す。その言葉通り、一同の背後には又機械兵士が現れていた。しかも今度は手にしている武器が機関銃だけでなく、ナイフ等の刃物や大型砲など多数に及んでいた。


「狐妖術……赤き小波!!」


空弧はそういうとその名前の通り赤い小波を機械兵士に向けて放ち、その水で呑み込んだ機械兵士を腐食させ錆付かせる。


「これが有効と言う点もあれが機会であることを証明しているわね……何なのかしら、この嫌な予感」


そう語る空弧の声は最初は大きかったが徐々に尻すぼみになり、最後はほぼ全員の耳に入っていなかった。ただ一人、星峰を除いては。だが星峰も敢えてその点には触れず、一同をリードするかのように扉を開けて中に入って行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る