第369話 もう一つの視点から

一方、今回の作戦の報は当然ではあるが、ブエルスに居る天之御達の元にも伝わっていた。その事を天之御は今正に星峰の部屋を訪れ、話している。


「そう、松波街が奪回されたのね」


星峰は静かな声でそう告げる。自軍の街が制圧されたのだがその口調はどこか何時も以上に冷静な素振りを見せていた。その言葉に


「うん。見事なまでに動いてくれたよ、彼等はね」


と天之御も続ける。こちらも普段以上に冷静な声である。その声のまま更に


「で、その作戦の部隊の中に彼等、コンスタリオ小隊も含まれていたんだ」


と続ける。すると星峰には初耳だったのか少し顔色が変わる。やはり嘗ての戦友であるが故に気になるのであろうか?


「奪還作戦にコンスタリオ小隊が?もう復帰している所は流石と言っておくけど彼等に協力を要請する程の……いえ、寧ろそれだからこそ彼等を戦力に投入したのかもしれないわね」


星峰はそう告げると変わっていた顔色を元の表情に戻す。如何やら口にした事で冷静さを取り戻した様だ。するとそこに


「お二人とも、仲良く密談?」


と言う声と共に涙名も入って来る。言葉は冗談めいているが、その顔は全く笑っていない。恐らくは涙名も事情は知っているのだろう。或いは聞いていたのかもしれない。


「涙名、どうしたの?」

「その密談に加わらせてもらおうと思って。……松波街、奪還されたんでしょ」


天之御がどうしたのか問いかけると涙名はそう返答し、そのまま会話に加わろうとする。


「このタイミングで松波街か。その狙いは恐らく周囲にあると考えられる先史遺産の入手だろうね」


加わって早々にそう語る涙名、だがその意見には天之御も星峰も異を唱えはしなかった。そしてそのまま


「ええ、まだ確証がある訳では無いけどその周辺に先史遺産の兵器が出現したという報告はかなり前から散見している。それこそ、この戦争が始まる前からね。街そのものの規模は小さいからあまり注目はされていなかったようだけど」


星峰は言葉を続け、それで問題をクリアする。


「これからは先史遺産の目撃情報等も洗い出して行く必要があるね。それがブントの手に落ちてからでは遅い。だから……」

「分かってる。既にこちらから協力要請は出してあるし、続々と情報の提供もある。後はどちらがどう動くか、どう悟らせずに動けるかの化かし合いだね」


涙名が警戒心を抱いた音程でそう口に出すと天之御はそれに対し、既に何らかの手立てを講じている事を口にする。だが三人の会話には何れも松波街を奪還された事に対する危機感は感じられなかった。これは一体どういうことなのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る