第356話 星峰を取り巻く異端

「はい。しかも星峰はそれを何の前触れも無く発動した、普通の弧妖術と同じ様に」


空弧がそう続けると天之御は


「となると、少なくとも星峰にとってそれは何ら特殊な弧妖術ではなく、普通の弧妖術と変わらないという訳か……だが、空弧が見た事も聞いた事も無いのなら星峰がどこかからその妖術を仕入れてこなければそもそも発動自体出来ない筈。

それとも新たな弧妖術を生み出したとでも?」


と結論が出たのか出ていないのか分からない返答をする。だがその内容に空弧は言葉を返すことが出来なかった。新たな弧妖術を生み出したという回答はこの状況を説明するのに十分すぎる程の単純かつ絶大な説得力を持っていたからだ。


「新たな弧妖術を生み出す……考えられないとは言い切れません。言い切れませんが……」


天之御の結論を打ち消したいがその為の言葉が見つからず、その事にも言い淀む自分にも苛立つ空弧、そんな彼女に天之御は


「星峰の性格から考えて自分に何か異変が起きていると悟れば僕達に話してくれる筈だ。仮に隠しているとしても普段の行動に何らかの変化がある筈……そう考えると星峰は自分がどういう状況なのかも分かっていないのかもしれない」


と星峰の思考を予測した言葉を告げる。


「知らない内に強くなっている……でもそれを本人が自覚していない。そういう事ですか?」


天之御の返答にこう返す空弧、その返しに対して


「うん。星峰本人に起こっている変化は彼女から告げてもらうのを待つしかない。だから今僕達が考えられるのはどうして星峰の能力が強化されたのか、そのきっかけを予測する事だ。何か心当たりはある?」


と問いかける天之御、すると空弧は


「……もし、彼女自身の鍛錬によって取得したのではないのだとすれば、考えられるのは先日の遠征で私の故郷に出向いた事かもしれません」


と自身の考えうる仮説を語る。


「この前の遠征がって、一体どういう事なの?」


天之御はそう聞き返すが、その顔は明らかに呆気に取られていた。空弧の返した言葉が予想の斜め上を行っていたのだろうか?それを察しつつも空弧は


「あの時、星峰は私の血族に接触を図られていたんです。恐らくは家系争いの一環に利用する為に。それは私が阻止しましたが、その接触とあの地が星峰に何らかの影響を与えた可能性は否定出来ません」


と告げる。その返答を聞いた天之御は


「接触と君の故郷が?それは一体どういう……」


天之御はそう言いかけるが、その途中で空弧の顔が少し険しい物に変わるのを間近で確認し言葉を止める。

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