第321話 揺れ動く空弧
「星峰がイラつく……か。彼奴だったら納得ね。あの軽くチャラ着いた口調、そしてそれから想像出来る責任感の無さ、星峰には到底受け入れも理解も出来ないだろうから」
自身の性格を知り、記憶を共有しているが故なのか、考えを言い当てる空弧に困惑する星峰、だがそれ以上に彼女の心に引っ掛かりを残すのは仮にも家族であるはずの兄を彼奴と呼ぶ空弧の口調であった。ただ単に軽蔑しているとも、恨んでいるとも違う、相当に深い溝と闇がある、そう思わずにはいられなかった。
「……ねえ、奴らが私達に何かを仕掛けてくる可能性はどのくらいあると思う?」
気を逸らせる為か、それとも単なる疑問なのか、そのどちらともとれる間を置いて星峰は空弧に問いかける。
「今すぐではなくても可能性はかなり高いわ。自分たちの没落がかかっているとなればどんな手段を使ってくるかも分からない。発信機なんてものを使って来たって事は私達が今どこにいるかは知らないのでしょうけど……」
空弧の表情は明らかに深刻であった。それは相手が良く知る肉親であるが故だろう。だが空弧の顔にそれ故の動揺は見られない。それだけ嫌っていると言う事なのだろうか?そう考えると星峰は何処か危うさを考えずにはいられなかった。
「いずれブントを潰す時、否が応でも戦わざるを得なくなると思うわ。そして今回の一件にも関わってるんじゃないか、そう思うの。奴らはその位、そして失敗した者を切り捨てる事位物の如くやるからね!!」
徐々に語気が強くなる空弧に危機感を抱いたのか、星峰は
「分かったわ、その時は私も全力で迎え撃つ。だから……」
と協力を約束しつつ、同時に空弧をなだめる。その真意に気付いたのか
「あ……御免なさい、私……」
と言葉の音程を弱め、感情の高ぶりを鎮める。そしてそのまま椅子から立ち上がり、星峰の部屋から外に出る。それを見届けた星峰は
「空弧……貴方に一体何が起こったの……」
とその過去に何があったのか、気にせずにはいられなかった。これまで大切なのは未来であり、過去は変えようのない物として処理してきた星峰だが、空弧の過去に関しては知らなかければならないかもしれない。そう考えざるを得なかった。一方、自室に戻った空弧も又覚悟を決めた堅く険しい表情を浮かべていた。
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