第312話 仮面の下の二枚舌
「そうか、有難う。僕達は今から駐在部隊の基地に向かうから、また時間があればお会いしましょう」
天之御はそういうと星峰と空弧を連れてそのまま基地の方へと歩き始める。その最中星峰は
「さっきの住民との会話、天之御にしては濁した対応だったわね」
と先程感じた疑問を口に出す。すると天之御は
「やっぱり見抜かれてたか。ここの住民、特にブントに関わっている者は日和見主義的な部分があるからね。あっちに行ったりこっちに来たり、中々情報は提供出来ないのさ」
とその理由を告げる。それを聞いた星峰は
「ああ、だから住民にも違和感があったのね。空弧と入れ替わっている事に本当は気付いていなくて、直ぐに順応した様に装った。でも実際はそれはどうでもいいから装っただけに過ぎない」
と納得した声をあげ、
「ええ、少なくとも私がここを出奔する前まで住民たちはあんな風に言いよっては来なかったわ。私は勿論の事、天之御様にもね」
と空弧も同意する。だがその同意を聞いた星峰はどこかその言葉の中に刺々しい物を感じずにはいられなかった。それもその棘が刺さったら一瞬で命すら落としかねない猛毒を含んで居る様な棘を。
「さあ、着いたよ」
暫く足を進めた後に天之御がそう告げると目の前には周囲の風景に合わせているのか、他の基地とは大きさこそ同じ位あるものの、建物の、少なくとも外見は明らかに違う魔人族部隊の基地があった。そして三人はその中に入っていく。すると入った直後に
「天之御殿下、御来訪をお待ちしておりました」
と言って頭を下げる兵士の姿があった。
「お出迎えに感謝するよ。それで、基地の現司令官は?」
「司令室におられます。ご案内いたします」
天之御の質問と労いに笑顔で案内を開始する兵士、だが天之御や空弧の顔は密かに険しさを含んで居る事を星峰は見逃さなかった。
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