第309話 星峰の優しさ、空弧の心
「貴女が向かうのに天之御はあまりいい顔をしていなかったわね。恐らく全員でいく必要が無いと言ったのも本当は空弧の同行を避けたかったんじゃないかしら」
星峰がそう指摘すると空弧は
「恐らく……いえ、ほぼ間違いなくそうだと思うわ。天之御様は私の事情を一番外部の魔神族では知っているもの。だからこそ私を連れていくのに難色を示していた。
でも私はそれに甘える訳にはいかないの!!」
とその真意を汲み取りつつも強い口調で発言する。その発言の仕方は自身に対して迷いを振り切ろうとしている様にも見える。それに気づいたのか星峰は
「甘えるのは確かに感心しないわね。でも支えるのは構わないかしら?」
と助けとなる事をそれとなく示唆する。
「星峰……」
その言葉に気が緩んだのか、先程まで険しかった空弧の顔が少し緩む。それを見た星峰は一瞬気恥ずかしそうになる。嘗ての自分の体であり、一番良く見ていた筈の自分でさえ今の空弧が見せている顔は見た事が無かったからだ。自分が本来、今の空弧が見せている朗らかで緩んだ笑顔が出来る、その事に少々衝撃を受けつつも星峰の顔もそれに釣られたのか自然と緩んでいく。
「でも星峰、貴方も気を付けて。私と星峰の件は魔神族の中でも知っている存在とまだ知らない存在が混在しているの。だから……」
「貴女と八米街の間で起こっている問題に私が巻き込まれるかもしれないって訳ね。分かったわ、忠告は受け取っておく。でも私はみすみすやられるつもりはないわ。貴方とのさっきの約束を果たす為にもね」
少し不安げな顔をする空弧に対し、星峰ははっきりとそう宣言する。
「それじゃ、私は先に部屋に戻るわね」
星峰はそう告げる、何時の間にかその足は星峰の部屋の前まで来ていたのだ。それを確認すると空弧は首を縦に振って頷き、星峰が部屋の中に入るのを見届ける。そしてそれが終わると
「星峰……ありがとう」
と耳元で囁かれても気付くかどうかわからない様な小声でそう呟く。そのまま時間は流れ、翌日の朝、出発の時刻が訪れようとしていた。
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