第253話 どこかに見える影

「アンナースちゃん?どうしたの」


コンスタリオはそう言いながら振り向き、アンナースにこの部屋に来た目的を訪ねる。するとアンナースは


「えへへっ、さっき指令室に入って行くとこと出ていくとこ見ちゃって、なんか深刻な顔してたから気になって見に来ちゃった」


と笑顔を浮かべ、あっけらかんとした口調で話す。


「そうなの……それは気を遣わせたわね」


アンナースの口調に飲まれたのか、コンスタリオも何となくではあるが笑顔を見せる。だがその直後


「やっぱり、人族部隊の進撃の件が通信の議題だったんですね」


アンナースがそう告げた事で朗らかな空気は早くもどこかに行ってしまう。そしてそれはアンナースの口調にも表れていた。先程までとは口調や音程が明らかに異なっていたからだ。


「どうしてそれを……」

「これでも部隊長ですからね、一応そうした情報は入ってくるしチェックもしてる。敵の戦略が上回ったのか、こちらの行動が単に迂闊なだけだったのか、その点についても現時点では責任の所在が曖昧になっちゃってる。

更に別動隊までけしかけてるのにそれも全滅となれば慎重な対応をせざるを得ないわよね」


コンスタリオが聞き出そうとするまでもなく、アンナースは自身がそれを知っている経緯を全て話す。その口調はどこか達観している様にも呆れている様にも見える。


「なら、今後どうするかについての会議にも出席したりするの?」

「まあ、一応はですね。部隊長である以上、余計な犠牲を出したくはありませんし」


コンスタリオの更なる問いかけにもアンナースは軽い口調を崩さずに答える。だがその口調とは裏腹にどこか影がある、コンスタリオはそう感じていた。


「今回の一件でここの防衛体制も少し見直しが入るって話ですから一応この事も頭に入れておいてくださいね。それじゃ」


アンナースはそう伝えると扉を開け、部屋から出ていく。それを見届けたコンスタリオだがその直後


「やはりあの子、何か違和感がある……何?」


と呟く、その言葉が示しているのはコンスタリオはアンナースをどこか信じ切れていない部分があるという事実であった。それを示しているかのようにコンスタリオは彼女が部屋に入ってきた時、情報機器の画面電源を右手で落としていたのだ。

一方、部屋を出たアンナースは


「全く……余計な事をして感づかれたらどうするつもりなのかしら?自由競争も度が過ぎると考えものね……」


と吐き捨てる様に怒りの感情を吐露していた。

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