第222話 父の秘密

「そう……やっぱりそう簡単には行かないわね」


岬がぽつりとそう呟く。その声は分かっていたと思いつつもどこか落胆を隠し切れない、そんな様子だった。その声の様子を涙名は聞き逃さなかった。


「御免ね、もう少し僕ばきちんと情報を管理しておけば……」

「あ、いや、そんなつもりじゃないの」


岬の声を聴き、自分がもう少しと思わずにはいられなかったのだろう、涙名の口からは無意識の内に謝罪の言葉が漏れていた。それを聞いた岬は慌てて声の調子を元に戻そうとする。だがそれは涙名にとっては却って辛く見えた。無理をしている様にしか見えなかったからだ。だがその瞬間


「……待てよ!!確か……」


と急に何かを思い出したかのような口調になる。


「どうしたの?涙名君、急に大声を出したりして」


あまりにも急な声の変化に岬も戸惑わずには居られなかった。さっきまでの落胆すらもそれで吹き飛んでしまったように感じたのだ。


「もしかしたら……あそこになら情報があるかもしれない」


涙名の大声は尚も続き、岬は徐々に呆気に取られていく。だがあそこという言葉は聞き逃さなかった。


「あそこって何処なの?」


岬がそう問いかけると涙名は


「法皇の自室だった部屋だよ。僕も出入りしていたけどあそこには一般兵士にbは配られない機密資料も置いてあった。もしかしたらそこになら岬の故郷の事やブントの事が何か書いてあるかもしれない」


と続ける。その声は勢いがあり、岬は飲まれてしまいそうになる。だが直ぐに落ち着きを取り戻すと


「そうなのね。なら行ってみたいわ、案内はしてくれるの?」

「勿論だよ!!」


と涙名に問いかけ涙名も同意する。そこに


「なら人手は多い方がいいね」

「私達も同行させてもらえるかしら?法皇の部屋は私も入った事が無いから入ってみたいわ」


と言う声と共に天之御と星峰も入ってくる。


「天之御様、それに星峰もどうして?」


二人がここに来た事に戸惑う岬、その戸惑いを見て天之御は


「そりゃ、あれだけ大声を出してれば……ね」


と呟き、その元凶である涙名は赤面を浮かべる。


「さあ、行きましょう。早い方がいいでしょう」


星峰がそう促すと涙名は赤面をとりあえず引っ込め


「う……うん」


と何とか頷きを見せ、一行を法皇の部屋に案内する。

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