第172話 歴史という慢心
その最中、涙名は
「あの……彼等の規律というのは一体?」
先程から気になっている疑念を隠し通す事が出来ず、そのまま口に出す。それを聞いた天之御は
「僕も詳細は分からない。只、彼等は本来、外部との接触を極力避けて暮らしていくべきだと言う規律に従って生きてきた。そう聞いた事があるんだ」
と答える。その声を聴いた星峰と涙名は思った。この声は嘘を言っている声ではないと。だがこの事は知らなかったのだろうか、空弧や岬、八咫も同じ様な反応を見せているのが見える。
「外部との接触を極力避ける?」
空弧の呟きに対し
「ああ、彼等は先史遺産だけでなく、この一帯を守護する一族。外部との接触を避け、この地を守り続けるのが彼等の使命、それ故に歴史の表舞台に立つ事もほぼ無かったんだ。あの日まではね」
と返答する天之御。
「そのあの日というのは……」
岬がそう口にするが、それがブントの襲撃の日を意味する事は想像に難くなかった。そしてその予想は当たっており
「そう、ここがブントの襲撃を受けたあの日だよ。あの日、僕の父である先代魔王が襲撃を知る事が出来たのもブントの追跡を行っていたからであり、彼等から助けを求められた訳ではないんだ」
そう天之御は口にする。
「あの地獄のような光景を自分達だけで対処しようとした……」
八咫は思わず絶句するが、それは映像記録で襲撃の光景を見た他の面々も同様であった。同時にそれはその行動がどこか信じられないという疑念を生じさせもした。
「あの襲撃の後、恩義から族長である霊諍達は協力してくれてはいるけど、それでも先史遺産の領域を初めとするこの地の調査については及び腰だったんだ。それだけ支柱となっているのか、或いは慢心とも言っていたけどね」
天之御が続けるその言葉に
「つまり、長年守り続けてきたという思いがあの日に限っては仇、足かせとなってしまった……そういう事ですね。でもそれを今回漸く上げたという事は……」
「漸く上げたというより、上げざるを得なかったんだと思う。既に事態は自分達だけで何とか出来る話じゃないって事になっていて」
星峰が続けると天之御は更に先の言葉を繋げる。そうこう会話をしている内に目的地の先史遺産があるエリアに辿り着く。だがそこは従来の機械的な雰囲気ではなく、森の中に広大な平地が広がる草の海の様な光景が広がっていた。
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