第171話 それぞれの規律
そしてこち口に話しかけられる内、あっというまに周囲を取り囲まれてしまう。それは正に人懐っこい猫が集まる光景そのままであった。
「随分人気者なんですね。魔王とはいえここまで……」
涙名は何処か感心した様子だ、嘗てブエルスの皇子だったころ、自分も周囲を人に囲まれる経験自体はある。だが今の天之御の周囲の光景は嘗ての自分を遥かに上回っているのだ。
「そうですね、なんだか懐かしい光景です。でも……」
そんな涙名の意見に星峰も納得した様子を見せる。星峰も嘗てスターだったころルイナが周囲を取り囲まれる光景は何度も目にしている。故にこうした光景自体は対して珍しい物でもなかった。だがそれ故にこの取り囲み方に何か違和感を感じていた。
「何なのかしら、この違和感。悪意ではないけど、かと言って……」
言葉にこそ出さない物の、何か引っ掛かりを覚える。そう思わずにはいられなかった。
「声を聴かせてくれるのは嬉しいけど、今日はそのために来たんじゃないんだ。霊諍族長が遂に重い腰を上げてこの地の先史遺産の調査許可を降ろしてくれた」
天之御がそう告げた瞬間、取り囲んでいた一族の顔色が変わり、一斉にその言葉を失う。そして少しの間を置いて
「族長が……それは本当なのですか?」
と確認する様に問いかけてくる。それに対して天之御は
「うん、証言もある。妖術、記憶球現」
と言い、手から篭球位の大きさの水色の球体を出現させ、そこに先程の会話場面を映し出す。それは先程の会話をその中で再現している様に一言一句違える事は無かった。それを見たその場に居た面々は明らかにざわつき始める。
「君達が動揺するのは最もだと思う。だけど事態は既にここまでしなければならない程までに深刻になっているって事なんだ。嘗てこの地がブントに襲撃された時に持ち去られた技術が災いをもたらしてる。僕達も族長もそれは放置出来ない!!」
天之御が真剣な眼差しで揺らぐ事無くそう告げるとその場に居た面々は
「……分かりました。族長の決定であれば我々は従います。ですが……」
「分かってる。君達の規律は僕達も可能な限り守る」
天之御のその言葉にまだ何か言いたげなその面々もそれ以上何か言う事は無かった。それだけ強い意志を感じたという事なのだろう。それを確認すると天之御達はゆっくりとその場を後にし、先史遺産のある場所へと向かっていく。
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