第166話 豊国の素質

天之御に促され、一行はブエルスへと帰還する。その直後に上がった話題は当然


「姿は見えなくても風は感じられる。豊国さんはそう言いたいのですか?」


と涙名の一言で始まった豊国の今回の成果についてである。涙名の問いかけに豊国は


「ええ、あの光学迷彩は姿を見えなくしているだけで現世から消しているわけではありません。従って風が当たれば向きは変わり、水が当たればそこに飛沫が生じる。

妖術に比べれば原始的ではありますが確かな事実です」


と明確な答えを返す。その顔が緩む事は無いが口調から感じられる自信は十二分に感じる事が出来た。恐らく相当な戦場を潜り抜けてきたのだろう。涙名にはそう感じられた。


「豊国は妖術は苦手だけど、この風を初めとする自然現象を読む力は妖術以上の物があるわ。それと体術を徹底的に鍛える事で現在の総指揮官の座に就いたのよ」


空弧がそう解説すると豊国は


「お止め下さい空弧様。その様な事は……」


と遠慮がちに発言する。恥ずかしいのか照れ隠しなのか、どちらとも取れる反応に涙名と星峯も思わず笑顔を見せる。それ程微笑ましい光景なのだが、当人は恥ずかしがっている。その事を察したのか


「でも、今回の一件で西側の方も厄介な事になっている事は確実になったね」


と天之御がそれとなく話題を変える。その瞬間豊国の顔も元に戻り


「ええ、防衛部隊の指揮を取るに当たり状況を確認しましたが、人族側の協力者も今回の急な要請、行動には驚いていました。急すぎて準備を整えていないという形で何とか誤魔化しを聞かせる事が出来たという事ですが……」


と今回の裏側を報告する。これはその生真面目な性格故か、それとも話の流れが変わった事を助け船だと思ったのだろうか。


「今回はそれで通ったが、もし次があったら同じ誤魔化しは出来ないだろうな。恐らく常に準備はしておけと言う言いがかりをつけられる」


八咫のその発言に周囲の面々も首を縦に振る。それに異を唱える者は居なかった。


「こうなってくると厄介ですね。西側は東側と違い、首都中心と言う訳では無く、各々がある程度独立して行動しています。一か所だけ潰しても他が警戒してくるでしょう」


涙名のその発言も西のややこしさを現していた。それを聞いた天之御は


「なら東の方がまだやりやすいって事か。とにかく今は東と西、少なくともこのどちらかへの対処を優先して考えるべきだね」


と今後の取り敢えずの方針を決める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る