第164話 天之御の一手

そのまま勢い良く外に飛び出す星峰、だがその顔は全く笑っていない。


「星峰、どうしたんだ!?」


天之御が星峰に問いかける。その雰囲気から只事ではないと言う事は容易に察することが出来た。すると星峰は


「細菌兵器を積んだ光学迷彩車が一台この戦場から離れて移動しているわ!!しかもこのスピード、通常の迷彩車より更に早い!!このまま移動を許してはここからでは……」


と戦域以外にも細菌兵器が移動している事を伝える。それを聞いたその場に居た全員の顔は星峰と同様に険しくなる。それが何を意味しているかは容易に想像出来たからだ。


「つまり、こいつらは何が何でも細菌兵器を散布するつもりって事ね」


冷静に状況を見る岬、その判断自体は正しくはあるが、それだけではこの状況を打開する事は当然出来ない。


「くっ、急がなくては……つっ、黄土の牢獄!!」


星峰の言う離れている光学迷彩車の元に急ごうとする空弧だが走り出そうとしたとたんに妖術を目の前に放つ。すると目の前に砂嵐が巻き起こり、その中から光学迷彩者が出現する。目の前を侵攻部隊の光学迷彩車が移動していったのだ。

砂嵐に巻き込む事で行動を封じ、その機能を停止させる事には成功するが移動はさらに遅れてしまう。


「更に遅れてる。このままじゃ……」


顔に焦りが浮かぶ空弧、その空弧を横目に見ると天之御は


「星峰、空弧、その離れて移動しているのは一台だけなの?泉野町から見て接近しようとしている今の時点での方角は特定出来る?」


と両者に訪ねる。それを聞いた二人は


「ええ、一台だけです。方角は南東から移動しています」


と声を揃えて返答する。天之御がその質問をした意図は分からないがその意図を聞く者はいなかった。聞くのには何か理由がある、そしてそれはこの状況を打開する策となると全員が考えていたからだ。


「聞こえた?豊雲!!」


星峰と空弧の解説を聞き終えると天之御は唐突にそう言い、それから数秒後に戦域から離れた場所で爆発が起こる。そしてその爆発が起こった瞬間星峰と空弧の顔から険しさが若干和らぎ、安堵と言える表情を見せる。だがそれを見ると天之御は


「皆、気を抜くのは早いよ!!まだ戦いは終わっていないんだから」


とその場に居たメンバーを激励する。その言葉を聞いて


「そうですね。まだ光学迷彩車も残ってる。ここで奴等を通したら何にもならないですね!!」


はっとした涙名はそう気合を入れなおし


「勇猛なる爪!!」


と言って両方の爪に力を込め、人族部隊の足を中心に次々と切っていく。

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