第88話 現在の理由
「で、まず一番に聞きたいのは、貴方がどうしてその少年になっているのか、そこから始めさせてもらっていいかしら?」
椅子に座った状態で星峰はルイナをじっと見つめ、真剣な眼差しを向ける。
「構わないけど・・・大体の見当はついてるんでしょ?」
構わないという割にははぐらかした様な回答をするルイナ、だがその言葉は事実であった。星峰は自身の立場からその理由について、少なくとも一つの仮説を立てていた。
「入れ替わりの魔術ね・・・あれが魔神族の専売特許という訳ではないのなら・・・という説は確かに立てていたわ。で、そう話すって事はそれでいいのね」
ルイナに確かめる星峰、それを聞いたルイナは
「うん」
とだけ話し 首を大きく縦に振る。そのまま言葉を続け
「あの日、僕は・・・」
~ブエルスの城、魔神族強襲時~
兵士から伝言を受け取った後、天井から聞こえたドシンという音と共に振り返るルイナ。するとそこには現在ルイナの体となっている魔神族の少年が居た。
「西側大陸の皇子ルイナ、覚悟!!」
そう叫ぶ少年、その顔は初対面にも拘らず憎しみに満ちていた。そのまま有無を言わさず両手の爪を立て、ルイナに飛び掛かってくる。ルイナはそれを躱すと少年の顔に回し蹴りを当ててその場に倒れこませる。
「ぐっ」
抵抗にあうと思っていなかったのか、思わず声を挙げる少年。そんな少年に
「物凄い顔だね、そんなに人族が憎いの?」
と問いかけるルイナ、だが少年はそれを聞き、更に憎しみを顔に浮かべて
「煩い!!お前だけじゃない、人族は全て・・・」
そう言いながら尚も飛び掛かってくる少年と格闘戦で渡り合い続けるルイナ。その動きは決して素人ではなかった。だがまだ年齢的な幼さがあるのか徐々に体力を消耗し、遂に少年の攻撃をかわし切れずにバランスを崩してしまう。
「くっ、しまっ・・・」
「もらったーっ!!」
その隙を見逃さなかった少年の爪はルイナの心臓を正確に捉えていた。だがルイナは動じることなく
「マジクル・スワップ!!」
と言い、両目から青い光を放つ。
「目眩ましのつもりか、だが・・・」
少年の言う通り、その爪は最早止まる事はなく、ルイナの体を貫く。そして光が終わったとき、ルイナは血を流して倒れていた。否、正確に言えばついさっきまでルイナであり、既に少年と入れ替わったルイナの体の亡骸が。それを見つめながら
「・・・君と同じだよ。僕にも覚悟と理由がある。ここで死ぬ訳にはいかないんだ」
血に濡れた右の爪を見つめながらルイナは呟く。それは少年への手向けの言葉とも自分に言い聞かせているともとれる言葉だった。
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