第62話 選択の時

「やっぱり・・・君も見た事が無いんだね」


そう呟く天之御の声は落胆ではなく寧ろ納得が行ったという感じの声だった。


「ええ・・・父の部屋にこんな扉があるなんて・・・」

「驚いているところ悪いのだけど、君に試してもらいたい事があるんだ」


天之御はそういうと徐にどこかを指差す。その先には本棚があった。だが天之御がさしていたのは本棚そのものでも本でもなく、本の上に置かれている物であった。そしてその物はスターが非常に見覚えのある物だった。


「あれは・・・私の剣!?」


これまで使った事の無い一人称を用いている事にも気付かないまま、ただ驚いた声を上げるスター。目覚めた時の手元には無かった剣がこんな奇妙な場所に置かれている。その驚きが余にも凄まじ過ぎたのだ。


「・・・何を考えているのか、何となく想像がつきましたよ」


天之御の考えを察したと言わんばかりにスターは本棚に向かい剣を手に取り、手にしたその剣を扉の窪みに差し込む。すると扉が光出し、魔法封印が解除される。


「察しが早くて助かるよ。君はやっぱり優秀だね」


上から目線の発言のようにも見えるが、天之御の目線はあくまで水平である。その事が気掛かりではあるものの、今のスターはそれ以上に気掛かりなものがあった。扉の奥である。父の部屋にあった隠し扉、その奥には何があるのだろうか?その考えを巡らせながら、スターは天之御と共に扉の奥へと入っていく。


「これは・・・辺り一面が資料で埋め尽くされている・・・一体何の資料なの?」


夥しい数のファイルがびっしりと敷き詰められた部屋、そこは何かの資料室としか思えなかった。その中の一つを手に取り、中身を見るスター。


「・・・死の商人ブント、人族と魔神族の戦争を起こし、煽り、私腹を肥やす者。奴等は太古から伝わる禁断の技術を独占し、その技術で戦争を起こしている。生命を作り出す技術、兵器を作り出す技術・・・」


その内容は昨日天之御が話していた事を裏付ける証拠として十分すぎる効力があった。更に他の資料も幾つか目を通すがその中にはブントに関する記述が事細かに記載され、スターがこれまで信じてきた前提を覆すには十二分の効力があった。


「・・・君のご両親はね、僕達魔神族との共生を望んでいたんだ。そして、ブントの事を知り、調査していた。だから魔神族側のブントはそれが外部に漏れる事を妨害する為に・・・」

「この街を襲撃した・・・そんな・・・」


余のショックに膝からその場に崩れ落ちるスター。


「君のご両親がブントの組織人なのか、それとも対立側なのか、ずっと判断しかねていたけどこれではっきりしたよ。君のご両親はブントと対立する側の重要な人物だった。だから先代魔王である僕の父はブントが制圧したこの街を正規軍の重要な拠点にしたんだ」

「この事を・・・知っていたから・・・」


涙交じりの声でスターは天之御の言葉に必死に返答する。


「この扉の謎は解けた。で・・・君はどうする?」


天之御は唐突に問いかける。だがその問いかけが意味することが何なのか、それに対する回答は既にスターの中で決まっていた。それは涙交じりのこの状況でも分かる程単純なものだったからだ。

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