第406話 無気力にならない

「酒だ!酒が足らんぞ!酒をよこせ!」


 今日も真昼間からいい御身分で呂布は酒を飲んでいる。


 やることなすこと全てが裏目に出た彼は無気力になっていた。


『引籠りこそ至上!自宅警備こそ万全!勤務中に酒を飲んで何が悪い!!』


 心身ともにダメ人間となってしまった彼は、一種の自暴自棄になっていた。


(どうせ今日も何も起こらん!酒を飲んで時間をつぶして終わりだ!!)


 そう思いながら美女をはべらせ酒を飲んでいた彼であったが、ここで・・・


「ウヒィッ!水だッ!水が襲って来るウゥゥゥゥ!!」


「ハザード!ウォーターハザードだ!誰か助けて!!」


「溺れるぅ!溺れるぅ!」


 と、城内で騒ぎの声が上がった。


「何だ!何事か!せからしいぞ!!」


 呂布が閣より飛び出ると・・・そこは辺り一面水浸しであった。


「こ、これは・・・。」


 呂布は目を疑った。

 城中至る所に浸々しんしんと濁流が渦巻いている。


「何が起こったか?」


 理解できない。

 昨日までは何もなかった城内が混乱の渦である。

 城中の兵たちは生きた心地なく、皆、高地に立ち、流れ迫る水を眺めていた。


「どうやら敵が河をき止めたようでござんす。」


 物見の説明を聞いている間も、水かさが増した気がする。

 そんなに急には増すはずはないのだが、将兵たちはそう感じ取ったのか、より騒ぎの声を大きくし始めていた。


「もうダメだ。このまま土左衛門化決定だ。・・・死にたくないよぅ( つω;`)ウッ 」


「知ってるかい?寒水で溺れると、身体中をナイフで突き刺されるような痛みが走るんだ。これタイタニック(映画)の知識だよ。」


「あ~あ、最期は溺死か。生まれ変わったら・・・私は貝になりたい。」


 悲壮ひそう・・・圧倒的悲壮である。

 希望の光が一縷いちるも見えない。

 絶望感漂う中、大将の呂布は、騒ぐ将兵たちを前に、わざと傲語ごうごして言った。


「うろたえるな!この馬鹿どもが!!」


「この呂布には赤兎馬がおる!あの名馬は水を渡ることも平地の如し!大海さえも休むことなく横断できる神の馬だ!」


(赤兎馬「えっ!?」)


「それに、汝らは、このままでは城が水没すると思っているようだが、それはパニック映画の観過ぎだ!水没するはずなどなかろう!!」


「慌てず動じず立ち騒ぐな!!」


「耐えていれば、そのうちに大雪風がやって来て、曹操の陣を雪没してしまうだろう!!」


「それまでは狼狽えず、冷静さを取り戻して対処するのだ!わかったか!」


 彼の傲語に将兵たちは「はっ。」と、力なく答えた。

 皆はもうやる気が無かった。

 ただただ言われたことをやるだけの木偶兵になり下がってしまっていた。


「まったく・・・なんと情けない。」


 言い終わった後、再度城内を流れ進む河を見つめる呂布。

 すると彼は、


「うっ!? こ、これは・・・。」


 と、水面に映る自身の顔を見て、思わず嘆声たんせいをもらしてしまったのであった。

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