第375話 恥ずかしくても生きること

 劉備軍は崩壊した。

 判断を誤った関羽のせいではない。自力の差が出てしまったのだ。

 劉備の小沛勢は小勢。

 関羽、張飛がいかに勇なりといえども、呂布の大勢を相手にするのは土台無理な話であった。



 呂布軍の追撃により小沛の城へ逃げた劉備であったが、彼と同時に、呂布を含む敵勢が城内へとなだれ込んだ。


 業火と叫喚。


 そして味方の狂乱を背に受けながら、劉備は西門より城外へと脱した。


「ああ・・・なんと恥ずかしい事か。」


 劉備は焼ける小沛の城を遠目より眺めて呟いた。


 城内には彼の母と妻が残されている。


 武人として、一人の男として、愛する家族を守れぬ自分の非力さを劉備は恥じたのだ。


(いっそ戻るべきか?)


 慙愧ざんきの念にとらわれ、黒煙の立ち昇る小沛城に戻ろうと考えた彼であったが、


「いや、ここで戦い死ぬのは最善ではない。生き延びて、再起を図ることこそ最善だ。」


「『死ねば終わり。』」


「母へのこうと妻への愛を積むためにも、ここから逃げ落ちるとしよう。・・・しかし、無念だ。」


 劉備は、そう思慮して、悄然と一人落ちて行ったのであった。

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