第373話 体を粗末にはしない
「むっ!? 見よ!呂布の軍勢が退いて行くぞ!!」
小沛の小城を取り囲んでいた大兵が、潮が引くように退いて行く。
城中の劉備はすぐに察して、
「皆の者!曹操軍の援軍が来たに違いない!この機を逃さず打って出るぞ!!」
と、孫乾、糜竺、
まさに反転攻勢。
「へっ、この甘ちゃんが!」と言わんばかりに、劉備軍は呂布軍の尻を追いかけるのであった。
――――曹操軍と呂布軍は、対峙するや否や、すぐに正面より激突して戦塵を上げ始めた。
曹操軍の精鋭は強く、屈強な呂布軍を相手に一歩も引かず、むしろ勢いは増していき、ジリジリと呂布軍を押していった。
「いかん!このままでは押し切られる!――――夏候惇!この高順と一騎討ちせよ!!」
大将である夏候惇を打ち破らんと、高順は名乗りを上げて陣頭へと躍り出た。
この挑戦に夏候惇は、
「ほほぅ・・・よかろう!その挑発に乗ってやる!かかって来い!!」
と、彼もまた陣頭へと駒を進め、高順と一騎討ちを始めた。
『一騎討ち』
この言葉の意味はしかるべし、戦士同士が一対一で勝負を決める戦闘手段である。
戦況にもよるが、原則は一対一、横槍を入れるのは無粋と言えるだろう。
夏候惇と高順は槍を交わして、五十合あまりに渡って打ちあった。
この一騎討ちで戦の勝敗が決まるという大事な一戦。
その一戦は夏候惇に軍配が上がりそうになった。
ガキンッという音が
「勝った!もらったぁ!!」
武器を失い、逃げようとする高順の背に夏候惇の槍が迫る。
しかしその時、彼の視界の左側が突如として真っ暗になった。瞬間、左目に激痛が走る。
「ぐわっ!?」
激痛に声を上げる夏候惇。
見るに、彼の左目に何かが刺さっている。
矢である。
矢が彼の左目に突き刺さったのだ。
夏候惇に矢を射たのは呂布軍の将である『曹性』であった。
高順の命を救うべく、彼は弓を構えて、夏候惇の面を狙って矢を射たのである。
「・・・・・・ッ!!」
鐙を
「すわっ!!」
と、自らの手で片目に立っている矢を引き抜き、
そして、
「我が肉体は、精は父より、血は母より頂いたモノ!一片たりとも粗末にせぬ!!」
と言って、鏃に刺さっている自身の左目に喰らいつき、彼は目玉を一気に呑み込んだのであった。
その凄まじい光景に、矢を射た曹性は、
「あわわわわわ。」
といって、顔を蒼白にして震えた。
そんな彼に、顔を鮮血で真っ赤に染めた鬼人が迫る。
「貴様かッ!」
と、馬を向けて跳びかかると、ただ一槍の下に、片目の
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