第364話 悩み過ぎないこと

 その夜。

 曹操は独座どくざして、深い思考を巡らせていた。


「右か左か・・・避けていた問題が正面に立ったか。」


 袁紹という大きな存在を前にすると、さすがの曹操も夜に安眠することが出来なかった。


『優れた殿が勝つのは明白です。』


 天才的な洞察力を持つ郭嘉の励ましを思い出すも、やはり不安は拭えない。


「私の方が優れている。部下の質も優っている。しかし、それを強味とするのは愚かなことだ。」


 以前にも少し触れたことがあったが、袁一門は名門中の名門である。

 冗談抜きで、ドヤ顔全開できるレベルの名門である。

 国の元老にもせる家柄であり、一族には袁術のような者もおり、大国を有しているだけあって、賢士を養い、勇を持つ良臣も少なくない。


「あやつには威があり、私には威がない・・・。」


「――――だが、奴の威を恐れてじっとしていては、いずれは滅ぼされる。」


「・・・そうだ。私は行動するしかないのだ。私は温室で育ったのではない、風雲の中より生まれ育ったのだ。」


「前進だ。前進を忘れてはならない。常に勇気を持って前へ進み、難局を打開するのだ。」


西は劉表、張繍。

東は袁術。

北は袁紹。


 今、曹操のいる許都は、ほとんど四方を敵に囲まれており、安心のできる一方すら見いだせない。

 しかし、それが逆に曹操の心に火をつけた。

 逆境を愛する、曹操の魂が熱く燃える。


ふるい生命が新しい生命と入れ替わるのは自然の法則だ!」


「旧勢力に支えられている袁紹など、もはや過去の人間に過ぎぬ!」


「昨日ではなく、明日を見ている私は、これからを生きる新人だ!」


「よし!頑張ろう!そして、寝よう!!」


 腹がすわった曹操は、牀の布団に飛び込み、深い眠りに入ったのであった。

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