第353話 勝利の美酒に酔いしれない

 一方此方は宛城にて。

 伏牛山脈を越えてくる黄塵こうじんに、張繍は酷くうろたえていた。


「早よ、後詰してくれ!!」


 と、荊州の劉表に急使を飛ばし、腹心の賈詡かくを呼び寄せた。


「テハハハハ。お呼びですかな?」


「おおっ!賈詡!良く来てくれた! 今から曹操軍と一戦交える!お前もついて来るのだ!」


 この張繍の言に、賈詡は首を傾げ、同時に眉をひそめた。


「テハハ? それは・・・城から打って出るという意味ですかな?」


「それ以外の意味は無かろうに。・・・この暑さの中の行軍。曹操軍は疲労困憊ひろうこんぱい、ポンポコピーになっておるに違いない。そこを一気に叩く以外の選択肢は無かろう?」


「まぁ・・・普通はそうですな。しかし、私は城から出ず、籠城に徹することを勧めますが・・・。」


「随分消極的な考えだな。」


「相手は戦上手の曹操ですからな。下手に動かず防備を固め、敵の疲れを増々誘うべきだと思います。」


 賈詡の言葉に張繍は悩んだが、先のの軍との大勝が忘れられない。


命かけてと~戦った日から~~♪

素敵な~~思いで~築いてきたのに~~♪

あの時~と同じパターンで♪

戦いたい~といった二人の♪

心~と心が~~今も、なかなか通わない~~♪

あの~素晴~らしい!勝利をも・う・一・度~~~~♪

あの~素晴~らしい!勝利をも・う・一・度~~~~♪


 と、張繍がミュージカル風に踊りながら説得すると、


「テハハ・・・しかたありませんな。でしたら、張千ちょうせんを先陣として、城外にて曹操軍と一戦交えましょう。」


 と、賈詡は苦笑いして彼の案に承知した。


 ――――で、その結果はと言うと・・・もちろん張繍たちは敗れました。


 曹操軍の兵たちは普通でも、その配下の将たちは異常アブノーマルであった。

 ずんぐりむっくりの許褚きょちょが曹操軍の先頭に立ち、張千率いる軍と戦を開始すると、彼はあっという間に張千を討ち、張繍の軍を木の葉のように蹴散らした。


「こりゃいかんばい!全軍撤退じゃーーーーッ!!」


 張繍軍は一敗地にまみれ、口ほどもなく瞬く間に乱れ合い、宛城の内へスタコラと逃げ去っていったのであった。

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