第312話 立派な態度で務めること

 曹操からの思わぬ恩賞に、呂布は手を叩いてよろこんだ。


「すばらしい!ビューティフォー!ワンダフォー!!」


 彼は一もニもなく、曹操の御旨ぎょしに従うことにしたのであった。



「――――これで後顧の憂いはなくなった。」


 後方の狼を手懐けた曹操は大軍を催し、夏候惇を先鋒として宛城へと侵攻した。


 淯水いくすいの辺りまで来ると、そこに陣を布いた。

 その光景は『圧巻』の一言であった。

 15万もの大兵は、霞のように大地を覆い、宛城にいる張繍を威圧した。


 張繍は音に聞いた曹操が攻めて来たので色を失った。


「ばれた!ばれた!ばれた!ばれた!ばれた!」


「やばい!やばい!やばい!やばい!やばい!」


「どうしよ!どうしよ!どうしよ!どうしよ!どうしよ!」


 軍勢が一大勢力になったと言っても、曹操の軍勢に比べれば子供も同然。

 張繍は参謀の賈詡かくに相談した。


「どうだ?勝ち目はあるか?」


「テハハハハハ。無理ですな。勝ち目はゼロ。オールゼロです。曹操が全力を挙げて出てきている以上は。」


「・・・ではどうすればよいのだ?」


「降伏するしかありませんな。」


「一矢も報いずにか?」


「テハハハハハ。その通り。隠れて機をうかがうのも立派な戦術です。今は耐え忍ぶしかありませんな。」


「う~む。」


 賈詡は目先がきいている。

 事態の良し悪しを見極めた彼は張繍を説得して、すぐに曹操陣営へと自ら赴いた。

 その際、彼は敬意を払うことに全力を尽くした。

 立ち振る舞いから言葉の選定、張繍のための談判の進め方。

 その全てが理にかなう、見事な態度を彼は示した。


 処世術にも優れている賈詡を曹操は気に入り、


「どうかね?張繍の所を去って、この曹操に仕えてみる気はないか?」


 と、人材マニアの本領を発揮して彼に催促した。


「テハハハハ。身に余る光栄ですが、張繍には恩があります。棄てるわけにはいきませぬ。」


「そうか。・・・張繍の前は誰に仕えていたのかね?」


「李傕に随身しておりました。しかし、それは私の黒歴史。暗愚に仕えていたことなど思い出したくもありませぬ。彼に仕えて以降、会社選びは自重しております。」


「なるほど。・・・あい、わかった。もう良い。使者としてのお主の務め、誠に見事であった。」


 賈詡の言葉に、曹操はそれ以上催促せず、彼を素直に張繍の元へ送り返したのであった。

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