第十三章 蜜月の代償

第311話 夢を諦めない

 劉備に恩を売ったことは、曹操にとって大いなる『利』であった。


(これで呂布討伐も幾何か容易になる。)


 ついに曹操の立案した呂布討伐計画が現実味を帯びてきた。・・・かに思えたが、意外な方面より都の危機が伝えられた。


 許昌は今や天子の府であり、曹操は国を動かす宰相の重きをなしている。


「花園を乱す賊は何者か!!」


 彼は剣を杖として立ち、都へ飛び込んでくる諜報員からの報告に耳を傾けていた。



 これより諜報員からの報告内容をまとめさせて頂く。


 この許昌が都になる以前、長安が国の中心であったのは読者の皆様も知る所であろう。

 そして、その長安で暴政を振っていたのが、今は亡き『董卓』であったというのもご存じであろう。

 次に、董卓が死んだ後、李傕りかく郭汜かくしがその後を継いだというのも理解しているだろう。

 その後、李傕と郭汜が曹操に敗れ、大権が彼に移ったというのは承知事項であろう。


 問題はその後である。


 曹操に敗れた兵たちをかり集め、打倒曹操に燃える董卓一門の将がいた。

 その将の名は『張繍ちょうしゅう』と言い、彼は諸州の敗残兵を一手に寄せ、荊州の太守『劉表』と軍事同盟を結んで宛城えんじょうを拠点としていた。


 今や張繍の軍勢は一大勢力となり、許都へ攻め上ろうと企てているのであった。



「夢よもう一度という訳か・・・。」


 諜報員からの報告を聞いて、曹操は腕を組んで考えた。


「・・・捨て置けまい。が、動けない。」


 曹操は張繍を即座に討つべきだと考えた。

 しかし、それを実行に移すことが出来ずにいた。


(・・・呂布を何とかしなければ。)


 兗州(えんしゅう)の時同様、うかつに都を留守にすれば、狼はたちまち飛び掛かるに違いなかった。


 曹操がその憂いのために出陣をためらっていると、腹心の荀彧が、


「そう悩むことはございません。私に一案がございます。」


 と、頼もしい言葉を言った。


「呂布は単純な狼です。エサの一つをポイッと与えてやれば、彼は感謝して都を襲ってくることはございますまい。」


 実にシンプルな提案である。

 しかし、それが実に的を射ている。

 彼の提案に曹操は膝を打った。


「さすがは荀彧。褒めてつかわす。すぐにエサの準備をするとしよう。」


 頼れる右腕の言を受け入れた曹操は、奉車都尉ほうしゃといの官位と恩賞を準備し、正式な使者を徐州へ下したのであった。

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