第298話 不可能だとは思わない

 自身の獲物を持ち、つかつかと閣の外へと歩を進める呂布。

 そんな彼の行動を劉備たちは、「???」と、疑問符を頭の上に浮かべて眺めていた。


「ふんっ!!」


 呂布は轅門えんもんまで来ると、戟の柄の先を地面に突き立て、劉備たちの元まで帰ってきた。


「皆の者、アレを見給え。ここから轅門までの間は、ちょうど百二十歩の距離がある。」


「・・・で、今から俺があの戟を狙って、ここから一矢射て見せる。」


「その矢が戟に当たれば天の声と思って和睦せよ。もし外れたら好き勝手に戦をすればよい。俺は止めん。」


 奇抜な提案である。


 作者は弓道に詳しくないので良くわからないが、百二十歩の距離の小さな的に矢を当てるというのは相当に難しいらしく、常人には不可能とのこと。


 呂布の弓の腕前は超一流であるが、この条件を聞いた紀霊は、


(いくら呂布でも当たるはずはない。)


 と、確信して、その案に同意した。

 劉備も同じ考えの様で、彼もまた同意した。


「双方同意ということでよろしいな?・・・では早速・・・と言いたいところだが、このままやっても面白くない。・・・誰か酒を持て!!」


 呂布はそう言って部下に酒の入った杯を持ってこさせた。


「おい!呂布!まさか酒に酔って矢を射ようというわけではないだろうな!!」


 呂布の行動に張飛が怒鳴る。

 そんな張飛に対し、紀霊が、


「良いではないか。天の声ならば、どのように射ようとも命中するはずだ。」


 と、彼をなだめると同時に呂布に皮肉を言った。

 そんな周囲の言動など気にせず、呂布はさらに酒を要求した。


「うぃ~~~!もう一杯!もう一杯!!」


 ガブガブと水のように酒を飲む呂布の姿に、「コイツわざと外すつもりか?」と、皆が疑心を抱いた。


 やがて酒がまわったのか、呂布の顔がポッと赤くなってきた。


「うむ。酔いが回って来たし、そろそろよかろう。・・・では。」


 そう言って彼は閣の前へ出て、片膝を折って弓を構えた。

 弓は一般的なモノに比べて小さかった。

 李満弓りまんきゅうという小型の弓であるが、弓勢ゆんぜい(=弓を引っ張る力量)の強さは、強弓と呼ばれる物以上である。


「・・・・・・・ふっ!!」


 プウンッ!!


 弦の音が鳴った。

 弦はぴんと返り、放たれた矢は風を切って緩やかな曲線を描いた。


 カチッ!!


 という音が彼方で鳴る。


「・・・文句あるまい。」


 呂布はしたり顔で、劉備と紀霊を見つめた。


 矢は戟の刃に当たり、矢は砕けて三つに折れたのであった。

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