第227話 贅沢は控えること

 『天子を手中に収めることが勝利への近道である。』


 これに気付いた李傕の甥である『李暹りせん』は、いち早く宮中へと赴き、献帝と皇后を無理矢理引き連れ、2名を馬車に乗せた。

 そして、謀臣の『賈詡かく』と武将の『左霊されい』を監視につけて車を走らせ、郿塢城へと帝たちを連れ去ってしまった。


 『天子がついた方が官軍で、それに逆らう者は逆賊となる。』


 帝を奪われたことに気付いた郭汜一派が必死になって追跡を行ったが、彼らは帝を奪い返すことは出来なかった。



 ――――郿塢城にて。

 献帝は監禁生活を強いられていた。

 郿塢城の幽室に閉じ込められ、一歩も外に出ることを許されなかった。

 仮にもこの大陸最高の権力者が、である。

 この生活は十日以上にも及んだ。


 人を呼んでも誰も来ず。

 書物も娯楽用品も何もない。


 まるで刑務所生活である。

 いや、刑務所の方がまだましなのかもしれない。

 というのも、刑務所は食事がしっかりしているらしいが、ここは違った。


 出される食事は腐れたモノばかりであった。


 帝は箸を取らなかった。

 腐った食べ物を好んで食べる人間などいるはずもない。

 帝の臣下たちは無理やり口に入れて食していたが、皆、


「オエーー!!!!」


 と、それらを吐き出して、床をゲロ塗れにしていた。


 これにはさすがの帝も激怒した。


「余を殺す気か!食い物だ!食せる食い物を持って来い!!」


 しかし、献帝の仰りに対し、李傕は口を大にして反論する。


「何を仰るのです!イナゴの大飢饉により、この国は食糧不足に陥っているのですぞ!ですぞ!!それに今は大乱の時です!贅沢は控えてください!ください!!」


 とても臣下の言葉とは思えぬ言葉。


 献帝の必死の言葉空しく、帝はその日も腐った食事を配膳されてしまった。


(これが李傕の余に対する忠義なのか・・・。)


 献帝は目の前に置かれた膳を見て、自分の腐った境遇を嘆き悲しむしかないのであった。

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