第225話 細かいことは気にしない

 数日後。

 呂布は一軍を連れて徐州の城へとやって来た。

 そしてその際、劉備は城より三十里先の彼方まで呂布を迎えに行った。


 実に丁重なお出迎え。


 恩知らずの呂布も、この丁重な出迎えには胸を打たれた。


「なぜ拙者をここまで手厚くもてなしてくれるのか?」


 城へと向かう道中で呂布が尋ねた。

 その問いに劉備が笑顔で答える。


「私は将軍の武勇を尊敬しているのです。そんな貴殿が、志むなしく、荒野をさまよっているとあらば、手を差し伸べるほかありませぬ。」


「さあさあ、遠慮することなく私の国で心ゆくまでお休みくだされ。」


 少々下手に出過ぎているが、劉備は呂布に対して丁寧な言葉使いで城へと招き入れた。



 ――――その夜。

 劉備は呂布のために宴会を開いた。

 その宴会は豪華絢爛であった。

 流浪の将に対しては、まさに破格の待遇。

 この劉備の待遇に呂布は非常に喜んだ。

 そして同時に、彼の本来の性格である傲慢さが表に出始めて来た。


 自慢話も交えながら、苦労話も話す。


 この何とも言えぬ彼の話に一人イライラを募らせる男がいた。


(・・・くそっ!面白くねぇ!兄貴は何であんな男を城に入れたんだよ!!)



 酒を煽り、気を静めようとする虎髭男。

 しかし、イライラは収まらない。

 酒の量が増し、彼は次第に気が昂っていった。

 風船のようにストレスが膨らんでいく。

 そして、そんなストレス風船を爆発させる言葉が呂布の口より発せられた。


「いや~今宵は愉快でたまらない。人の情というものをこれほど深く感じたのは生まれて初めてじゃ。」


「しかし、劉備殿の言われるように、貴公と拙者は何か不思議な縁で結ばれておるようですな。」


「考えるに、拙者が曹操の背後を突かなければ、徐州は今頃、彼奴きゃつのモノであったわけだ。・・・恩着せがましいようで申し訳ないが、良いことはしておくべきであるな。こうして徐州の城にお世話になることが出来たのだから。」


「なぁ、よ。」


 瞬間、張飛はキレた。

 酒杯さかずきを床に投げ捨て、勢いよく席より立ちあがると、呂布に向けて怒鳴り声を上げた。


「なんだと、呂布!もう一度言ってみろ!!」


 鬼のように怒れる形相。

 そして、大地を震わすその怒声に呂布は開いた口が塞がらなかった。

 彼は一体なぜ張飛が怒っているのか見当がついていなかった。

 顔面蒼白になっている呂布に張飛が言葉を続ける。


だとっ!! 貴様、今、我が義兄あにを賢弟などと馴れ馴れしく呼んだな!!ふざけんじゃねぇぞ!このドグサレスカタン野郎がっ!!」


「我が義兄は漢王朝の流れを金枝玉葉きんしぎょくよう!!お前は便所に吐き捨てられたタンカス以下の存在!!そんなゴミ虫が兄者に対して、馴れ馴れしい口を吐くんじゃあないぜ!!」


「それにな!お前のおかげで兄貴は徐州の太守になれたんじゃねぇ!!今までの血の滲む苦労があってのモノだ!!断じてお前のおかげなんかじゃねぇ!!」


「なおれ!その首を叩き斬って、犬に食わせてションベンかけてやる!!」


 刃を抜き、呂布に対して暴言を連発する張飛。


(あのアホッ!!)


 そこへすかさず、もう1人の義兄である関羽が彼に近づき、腹パンをお見舞いした。


「うっ!?」


 強烈な一撃にて張飛は気を失い、関羽に担がれて宴会場から退出した。


 まるで悪夢のような出来事。


 張飛の酒癖の悪さを知っている劉備たちはまだしも、相手はそれを知らぬ呂布御一行。

 超が百個つくほどの気まずい雰囲気に、劉備が作り笑いで呂布に声をかけた。


「将軍、申し訳ございません。見ての通り、義弟おとうとは酒癖が悪いのです。あいつは竹を割ったような性格の勇ましいおとこなのですが、酒を飲み過ぎると元気になり過ぎましてな。・・・はははは。」


 劉備の言葉に呂布はハッ!となり、劉備の顔を見て彼も作り笑いで返答した。


「い、いやいやいや!私は気にしておりませんぞ!酒は人を変えますからな!アハハハハ!・・・ハハハ。」


 こうして宴会は終わった。


 この日より、呂布は劉備の好意により徐州の小沛しょうはいにて体を休めることになった。

 このことが吉とでるか凶とでるか、それは誰にも分からなかった。

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