第224話 助けるかどうかは相手にもよる

 『樽一杯のワインに一滴の泥水を入れればそれは樽一杯の泥水になる。』


 徐州は豊かで治安よく、民が安心して暮らすことのできる穏やかな地であった。

 そして今、その地が発する芳醇な香りを嗅ぎつけた、血と泥にまみれた一匹の狂狼がいる。

 狂狼は徐州の太守である『劉備玄徳』の元に使いを出し、徐州を寝床に再起を計ろうとしていたのであった。



「・・・呂布を迎え入れよう。」


 呂布からの伝えを聞いた劉備は、彼を迎え入れようとした。

 この常軌を逸した考えに、家臣一同が猛反対する。


「何を考えているのですか、兄者!呂布がどういう男かご存じのはず!!」


「そうだぜ、兄貴!あんなのを国に入れたら何をされるかわかりませんぜ!!」


「お二人の言う通りです!呂布は頭のネジが外れた狂気の狼です!迎え入れたが最後!寝首をかかれますぞ!!」


 関羽、張飛、麋竺びじく

 家臣三名はクレイジーサイコ野郎である呂布を国に入れるべきではないと、声を大にして主君に忠言した。

 しかし、劉備の考えは変わらない。


「・・・たしかにお前たちの言う通り、呂布の人物としての評は決して好ましいものでは無い。しかしだな、私は呂布に運命的なモノを感じているのだ。」


「先頃、呂布が兗州に攻め入らなければ、この徐州は曹操のモノになっていただろう。もしあれが無ければ徐州は滅んでいた。そうなれば私が徐州の太守の地位に坐ることも無かった。・・・これが運命でなくてなんであろうか?」


「『窮鳥きゅうちょうふところに入れば猟師も殺さず。』」


「私は彼を温かく迎え入れようと思う。」


 この劉備の言葉の重さに3人は口をつぐんだ。

 そして全員がこう思った。


(((この人は人が良すぎる。)))


 彼らはこれ以上言葉無く、主君である劉備の言葉に従うことにしたのであった。

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