第218話 言葉使いは丁寧に

 その年の12月、曹操の遠征軍は汝南地方へと侵攻した。

 汝南には黄巾賊の残党たちが大勢おり、彼奴等きゃつらの頭目は『何儀かぎ』と『黄邵こうしょう』という2人であった。

 野蛮な彼らは羊山ようざんという山を本拠地として活動しており、民、百姓が稼いだ膏血こうけつ(=苦労して得た財産)を奪い取って、悠々自適な生活を過ごしていた。


 曹操はそこに目を付けた。


 彼は羊山へと軍を進め、黄巾賊討伐に乗り出した。


「なにっ!? 曹操軍が羊山へ侵攻して来ただと!小癪な奴め!返り討ちじゃーーい!!」


 『曹操軍来たる!』の報を受けた二頭目は、羊山の麓に軍を繰り出して待ち伏せ作戦を実行した。

 しかし、彼らは所詮、雑兵に過ぎない。

 鍛え上げられた鋼の肉体を持つ曹操軍の敵ではなかった。


 曹洪そうこうは敵将の『何曼かまん』を胴斬りにて一掃し、李典りてんは頭目の黄邵を生捕りにした。


 それを見たもう一人の頭目である何儀は、


「ひえぇぇぇぇ!これはたまらん!お助けーーーー!!」


 と言って、部下を見捨てて一目散に逃げてしまった。


「まて!逃げるな!大人しく捕まれ!!」


 逃げる何儀を典韋が追いかける。

 しばらく追いかけっこをしていると、逃げる何儀の前に奇妙な男が姿を現した。

 その男は、丸々と太った肉付きの良い大男であり、いかにも重鈍そうな体型をしていた。

 しかし、その見た目とは裏腹に、彼は素晴らしい体捌きを見せた。

 丸々と太ったその大男は、馬を走らせて何儀に近づくと、彼を蹴とばし、馬上から叩き落とすと、あっという間に縄で彼を縛り上げてしまった。


(!? 体格に似合わぬ何と見事な体術!一体何者か!!)


 追いかけていた典韋は大男の動きに目を見張った。

 そして、馬を降り、彼に近づき問いかけた。


「おのれは一体何者か!」


 この問いに、大男はぶっきらぼうに答える。


「俺は譙県しょうけんの『許褚きょちょ』だ!文句あるか!!」


 売り言葉に買い言葉。


 一触即発の空気になったため、軍人である典韋はその場を静めようとした。


「待て待て!拙者はその賊将を追いかけて来ただけだ!お前と戦いに来た訳ではない!その男をこっちによこせ!!」


 すると許褚は、


「いやだね。この男は俺の手柄だ。誰がお前に渡すか。( ゜д゜)、ペッ」


 と、彼をさらに挑発した。

 これが典韋の逆鱗に触れた。


 典韋は戟を構え、それを見た許褚は刃を抜いた。


 典韋と許褚の一騎打ちが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る