第212話 不吉な事は言わない

「「おーいおいおい!おーいおいおい!」」


 馬陵山ばりょうざんに悲しき嘆きが木霊こだまする。


 曹操が陳宮の策略に一杯食わされて数日が経過したその日、曹操軍の残党兵たちは馬陵山にて曹操の葬儀を執り行っていた。



 火の梁の攻撃により気を失った曹操は、その後、典韋によって救出されたのだが、彼は全身に大火傷を負ってしまい、明日をも知れぬ身となっていた。


(く、苦しい・・・息が出来ぬ・・・う~~~ん。)


 火傷の治療のために全身を包帯で巻かれ、呼吸もままならない曹操。

 そんなボロボロの主君の姿を見て、家臣たちの顔が憂色に満ちる。

 曹操は弱気になっている家臣たちを強気にするため、自分が元気であることをアピールした。


「・・・か、考えてみると、私は呂布に負けたのではない。火に負けたのだ。さすがの私も火には敵わんよ。」


「つ、次こそは・・・次こそは勝つ。もう軽率な行動はせぬ。策を持って奴らを殲滅してみせる。」


「皆、もう一度私に力を貸してくれ。」


 誰が見ても明らかに強がっていると分かる曹操の言動に、諸将たちは、増々顔を憂色に染めていった。

 その後、曹操は諸将一人一人に声をかけ、彼らを励ましながら、今後のことを相談した。

 そして、一通りの話を行った後、曹操の容体が一変した。


 曹操の体力はもう限界らしい。


 声に張りが無く、その声はもう聞き取れないほどに小さくなっていた。


「・・・夏侯惇。夏侯淵。」


「「はっ!」」


「・・・あとは任せたぞ。」


「「不吉な事を言わないで下さい!!」」


 声を荒げて主君を戒める夏侯兄弟。

 そんな二人を見て微笑む曹操。

 そして、・・・


「柩は馬陵山に・・・」


 曹操はそう呟くと目を瞑り、そのまま安らかに眠ったのであった。

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